2024年04月24日( 水 )

首都高技術「InfraDoctor®」でインフラメンテどう変わる?(前)

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首都高技術(株)

 インフラの図面や各種台帳と3次元点群データを地理情報システム(GIS)プラットフォームに統合し、構造物の維持管理を効率的に支援するシステム「InfraDoctor(インフラドクター)®」。同システムは首都高技術(株)(東京都港区)、朝日航洋(株)(東京都江東区)、(株)エリジオン(静岡県浜松市中区)の3者が2014年に共同開発を開始し、17年から本格運用を開始している。

 InfraDoctorでは、MMS(移動計測車両による測量システム)によって3次元点群データや全方位動画などを収集。収集したデータをGISとリンクさせることで、パソコン上で構造物の状況を確認できるほか、修繕の図面の自動作成などもできるスグレモノで、スマートインフラマネジメントシステム「i-DREAMs®」のコア技術という位置づけだ。InfraDoctorによって、インフラ点検はどのように変わるのか。

InfraDoctor®イメージ

効率的なメンテ技術、InfraDoctor開発の経緯

 首都高グループはなぜ、InfraDoctorなるシステムを開発したのか。その背景には「首都高インフラの高齢化(老朽化)」と「生産年齢人口の減少」という2つの要因があった。既存のインフラがどんどん古くなる一方で、働く人が少なくなれば、膨大なストックのメンテナンスは立ち行かなくなる。それを防ぐには、より効率的なメンテンナンス技術をつくり上げるしかない。そういう問題意識から2014年、InfraDoctorの開発がスタートした。

 InfraDoctor開発に際し、目を付けたのが3次元点群データ(3次元レーザースキャナー)技術だ。この技術は、当時すでに工場の配管のチェックなどに使用されていたが、これを首都高の構造物チェックに転用するアイデアが浮上した。ただし、工場で使用されるレーザースキャナーは固定式。全延長320kmにおよぶ首都高のすべての点群データを取るのに、いちいちスキャナーを設置するのはあまりに非効率的だ。

 そこで、走行しながらデータ収集する技術を開発することになり、これらの点群データに関する技術を有していたエリジオンと一緒に開発を始めた。また、MMSの開発は、GISを用いた空間情報処理に関するノウハウをもつ朝日航洋が担当。点群データをGISとリンクさせることで、「いつ」「どこ」のデータなのか、すべて紐付けすることが可能になる。後に触れるが、GISとのリンクは、点群データのさまざまな拡張活用に大きな威力を発揮する。

 開発は、実際の首都高をフィールドに進められた。InfraDoctorの開発を担当した永田佳文・首都高技術インフラドクター部長は「首都高という現場があるのは、大きな強みだった」と振り返る。首都高のメンテナンスを行う首都高グループの社員に対し、「どのように使いたいか」「どういう操作にすれば楽か」などについて、ヒアリングを行いながら、実地で開発を進めることができたからだ。「自分たちでシーズとニーズをマッチングさせながら開発をしていったので、それほど手戻りもなく、スムーズに開発が進んだ」と話す。

世界最高クラス、200万点/秒の点群密度

 InfraDoctorに搭載されるレーザースキャナーは2台。360度全方位、1秒間200万点をスキャンすることができる。永田部長によれば「世界最高レベル」の性能だという。この「ほぼ写真に近い点群密度」(永田部長)を構成するすべての点に「x」「y」「z」の座標が含まれる。すべての点が座標をもつことの意味は、非常に大きい。2点をクリックすると、その間の正確な寸法が瞬時に出てくる。点群データを使えば、現場に行かずとも、パソコン上で測量ができるわけだ。首都高では、16年に首都高すべての点群データ収集を完了。データ解析結果を基に、維持管理業務を実施している。

 「非常にラク。時間短縮効果は劇的だ」(同)というInfraDoctor内の首都高速のマップには、点群データと各場所の動画のほか、建設や点検・補修に関する台帳データなどが点群データ各点ごとに紐付けされている。ある場所をクリックすると、そこの動画、建設当時の図面、過去の点検結果、計算書などのデータをすべて見ることができる。紙ベースの場合、過去の書類を見つけるだけでも、かなりの時間と労力を要する。場所が特定できない場合でも、「あいまい検索」で場所を絞り込むことができるのも、地味に助かる機能だ。

(つづく)
【大石 恭正】

<Information>
InfraDoctor(インフラドクター)HP

<Company Information>
代 表:小笠原 政文
所在地:東京都港区虎ノ門3-10-11
設 立:2008年6月
資本金:9,000万円(首都高速道路(株)100%出資)
売上高:(19/3)91億円

(後)

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