2024年04月19日( 金 )

首都高技術「InfraDoctor®」でインフラメンテどう変わる?(後)

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首都高技術(株)

生産性20倍以上に、補修計画まで自動で作成

点群取得状況
点群取得状況

 InfraDoctorの活用用途は、ざっと16項目に上る。「点群データを1回取っておけば、その後は何にでも使える。コストパフォーマンスもかなり高い」(同)といい、路面性状調査も飛躍的に効率化される。路面のヒビ割れ検知には、3次元スキャナーではなく、ラインセンサカメラを用いる。スキャナーだと、微細なヒビ割れを検知しないリスクがあるからだ。ラインセンサカメラの効果は絶大で、人間の目で見落としがちな微細な変状も捉える。その画像からAIが異常を自動検知。調査範囲は線ではなく面なので、MCI(舗装の維持管理指数)やIRI(国際ラフネス指数)を面的に自動算出できる。

 石田哲也教授(東京大学)、水谷司准教授(東京大学)と首都高技術が共同で開発した、「準リアルタイム」で画像を解析するプログラムでは、従来、数カ月の時間を要していた100kmの点群データ解析を約30分で完了することができる。解析に時間がかかると、異常箇所の補修までのリードタイムもその分長くなる。データ解析が早く終わることは、補修も早くできることを意味する。首都高サイドが「準リアルタイム」にこだわった理由は、ここだった。「とにかくすごいプログラム」(同)と絶賛する。

 InfraDoctorには、補修に必要な費用を算出する機能もある。あるエリアを選択すると、エリア内の補修が必要な箇所を自動で選定し、費用を算出する。予算に応じて、補修箇所を選定し、補修計画も自動でつくることができる。「舗装を面的に調査し、補修箇所の選定、補修計画まで自動でできるシステムは、世界初ではないか」(同)と指摘する。

 パソコンで測量ができる効果は絶大だ。首都高と鉄道の間に作業足場を組む場合、従来のやり方だと、測量協議などを含めて約40日を要していた。InfraDoctorを使えば2日で終わる。「生産性は実に20倍以上だ」(同)と目を細める。

 点群データから自動運転用のマップ作成も可能だ。自動運転が解禁されたあかつきには、首都高上を隊列走行するトラックが日常の風景になるわけだ。点群データの活用範囲の広さには、目を見張るものがある。

 InfraDoctorに課題があるとすれば、点検走行中、1台でも通行車両があると、その部分のデータがとれない点だ。永田部長はこれを「ノイズ」と称する。ノイズを消すためには、もう1度点検車両を走らせる必要がある。全長数百kmの区間のすべての点群データをとるためには、複数回の走行が必要となる。その分費用もかさむこととなる。

道路だけでなく鉄道、空港でも

 InfraDoctorを、ほかのインフラ点検にも広げようという取り組みも始まっている。「もともとは首都高を点検する技術として開発したシステム、ほかのインフラを点検することは考えていなかった。使ってもらうとしても、同じ道路会社ぐらいしか想定していなかった」と振り返る。ところが、ほかの事業者もマンパワーが不足し、インフラの点検修繕には苦労している実情を知る。「ほかの事業者にとってメリットになるなら」ということで、本格的に支援サービスに乗り出した。

伊豆急行の点群データ
伊豆急行の点群データ

 その代表例が、伊豆急行(株)の伊豆急行線だ。首都高グループと東急グループの共同開発という位置づけで、InfraDoctorによる鉄道保守管理に乗り出した。鉄道のインフラ点検は、終電から始発までの限られた時間のうちに、暗闇のなかで作業しなければならない。鉄道会社によっては、20年に1回の点検作業に3年を要することもある。

 18年9月、台車にMMS車両を載せ、全長45.7kmを3日間かけて走らせ、データを収集した。3次元レーザースキャナーを使えば、トンネル内の漏水の状況なども鮮明なデータがとれた。伊豆急行は現在、InfraDoctorを用いて、同線のメンテナンスを実施している。

 阿蘇くまもと空港や富士山静岡空港でも、InfraDoctorはすでに稼働している。空港には滑走路(アスファルト)や駐機場(コンクリート)があるが、道路と同様に定期的なメンテナンスが必要だ。空港によっては、点検作業は飛行機が飛ばない夜間に限定されるうえ、点検する人員に限りがあるため、1回の点検に数カ月を要することもあるが、富士山静岡空港の滑走路を点検したところ、わずか3時間で完了した。

 建築構造物などの点検も可能だ。たとえば、重要文化財クラスの古い建造物の点群データを取ると、柱の本数やそれぞれの太さ、瓦の枚数などの正確なデータが取れるので、材料表を作成できる。仮に、建造物が地震などで倒壊した場合でも、点群データを基にすれば、正確で早期の復旧も可能になる。具体的にはいえないが、すでに数件の依頼が入っているという。

 「どんな構造物でも点検できると考えるようになっている」――永田部長はそう豪語し、インフラ点検に悩む規模の小さな自治体の支援にも前向きだ。たとえば、日本には約73万橋があるが、このうちの約40万橋は図面がないという。これらの橋の点群データを取れば、データを基に図面を起こすことができる。「規模の小さな橋梁を管理している自治体にとっても、点群を保有することで大きなメリットがある」(同)という。

 「あと5年も経てば、バブル入社組のベテランが一斉退職し、インフラ点検の人材も減る。今のうちからこういう点検技術をつくり上げておかないと、ベテランのノウハウも一気に消えてしまう。インフラ事業者の方々は、とにかく今からその準備をしていくべきだと思う」と続けた。

(了)
【大石 恭正】

<Information>
InfraDoctor(インフラドクター)HP

<Company Information>
代 表:小笠原 政文
所在地:東京都港区虎ノ門3-10-11
設 立:2008年6月
資本金:9,000万円(首都高速道路(株)100%出資)
売上高:(19/3)91億円

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