2024年03月29日( 金 )

NTT西日本がインフラ点検に参入 働き方を変える!?「ドカタTECH」(前)

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(株)ジャパン・インフラ・ウェイマーク

 NTT西日本(株)(大阪市中央区、NTT西)が100%出資する、(株)ジャパン・インフラ・ウェイマーク(以下、JIW)は2019年4月、ドローンによるインフラ点検サービスを目的に設立された会社だ。社名のJIWは「日本のインフラの道標」を意味する。NTT西はなぜ、インフラ点検に乗り出したのか。JIWが目指すものは何か。ドローンによってインフラ点検は、どう変わるのか。

民間最大のインフラストック

 NTT西の業務区域は、西は沖縄県から東は静岡県まで、30府県におよぶ。そのインフラストックは、約4,000棟のビルや約1,000塔の鉄塔、ケーブルが添架された橋梁など約3万にも上り、民間企業としては国内最大級だ。この膨大なインフラストックのメンテナンス負担が、同社の業績を圧迫しているという。

 固定電話の需要減少にともなって、NTT西では減収が続いている。1999年7月の会社設立時の売上高は3兆円だったが、現在は1.5兆円を下回る。インフラメンテナンスにかかるコスト削減が、大きな経営課題になっている。メンテナンスを行うマンパワーも年々減っており、2022年度にはメンテンス作業量がマンパワーを上回る見通しだ。NTT西は将来的に「収益も人も減り続ける」という厳しい状況に直面しているわけだ。

 一般の民間企業であれば、採算が取れないサービスは切り捨てるのが普通だ。だが、もともと公共セクターで、現在も総務省所管の特殊会社であるNTT西には、それができない。絶対に採算が取れないような山奥であっても、「固定電話を利用したい」という客がいる限り、全国一律でサービスを提供する義務があるからだ。当然、インフラも維持し続ける必要がある。そうなると、インフラのメンテナンスにかかる費用、必要な人員を減らすしかない。ただ、どうやってそれらを減らすのかというと、「新技術を導入し、メンテナンスに関する生産性を上げる」(JIW代表取締役社長CEO・柴田巧氏)ことだ。NTT西のJIW設立には、そういう背景があった。

ドローンを点検に使えないか?

ジャパン・インフラ・ウェイマークのドローン
ジャパン・インフラ・ウェイマークのドローン

 NTT西では従前から、カメラやセンサーなどのICT機器やMMS(移動計測車両による測量システム)などによる自社インフラ点検を実施していた。ほかのインフラ事業者と比べれば、かなり先進的な点検ツールを活用していたといえる。そんなNTT西のいう「新たな技術の導入」とは、それらを超える点検手法を意味していた。

 そして2年ほど前、「ドローンをインフラ点検に使えないか?」――と、NTT西の事業開発課長としてドローンを用いた太陽光発電点検ビジネスを手がけていた柴田社長に、声がかかった。

 柴田社長を始めとする新たな点検技術の開発チームは、トンネルやケーブルなどNTT西がもつインフラの種類を縦軸、目視や計測などの点検方法を横軸とするマトリックスを作成。「ドローンが使えそうなインフラの検討を行った結果、鉄塔や橋梁添架管路の点検にドローンを用いれば、生産性向上が見込めるという試算が出た。点検コストが高いところを中心に100カ所ほどを選び、トライアル点検を開始した。

 1年間のトライアルの結果、鉄塔なら約60%、橋梁添架管路に至っては約80%のコスト削減ができることが判明(直接原価比較)。「ドローンを導入しない手はない」(同)という結論に至る。ちなみに、橋梁点検車を使用した場合、1件あたりの点検コストは50万円ほどかかる。

他インフラ事業者にも貢献したい

 こうしてNTT西のドローン点検が本格化することになったが、柴田社長には気がかりなことがあった。「電力やガスなどのほかのインフラ事業者さんも、NTT西と同じような課題を抱えているのではないか」――と。他事業者にヒアリングを行うと、点検コスト、マンパワーに悩みを抱えていることがわかり、「ドローン点検なら他事業者にも貢献できるかもしれない」と考えるようになった。他事業者と組めば、AIの共同強化も可能になる。このとき柴田社長の脳裏に、NTT西を越えたドローン点検ビジネスの構想が生まれたという。

 「国内のインフラ点検、メンテナンスの市場規模は約1兆円。ドローン点検により、仮にコストを2割削減できれば、2,000億円が浮く。この2,000億円を元手にイノベーションを起こすことも可能だと思いました」(柴田社長)と振り返る。

 柴田社長は18年12月、新たなドローン点検サービス会社のビジネスプランを1カ月かけてつくり上げ、NTT西に提出。NTT西のトップから、「社会全体への貢献は良いテーマだ。ぜひやるべきだ。会社を立ち上げてごらん」と“GOサイン”をもらった。NTT西にとって、新会社設立は8年ぶりだった。

 柴田社長のビジネスプランのユニークなところは、「日本全体の経済成長を支える」ことに主眼を置き、他社との競争を外した点だ。「インフラ点検は、日本全体の課題。もはや競争領域ではない」という確信があった。各社がサービスを競い合うのではなく、協力し合ってコストを削減する。その削減分を成長分野に投資する。「競争するなら、成長分野ですれば良い」というビジョンがある。これがJIW設立の原点になっている。

(つづく)
【大石 恭正】

<Company Information>
代 表:柴田 巧
所在地:東京都中央区銀座1-6-5銀座Bビル3F
設 立:2019年4月
資本金:8億円(資本準備金含む)
URL:https://www.jiw.co.jp

(後)

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