2024年03月29日( 金 )

コンビニ業界大激変時代~月刊コンビニ編集委員 梅澤 聡 氏(1)

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 コンビニ深夜休業の是非。各方面からさまざまな“論客”が参戦してメディアを賑わせた。誰もが毎日のように利用するコンビニ。1日1店舗の利用客数を800~1,000人、全店舗数を5万8,000とすると、毎日5,000万人がコンビニを訪れている計算になる。国民の生活の一部に組み込まれたコンビニが今、内部で深刻な問題を抱えている。一連のメディア報道が人々に不安を与えたことはたしかだろう。コンビニ業界は今後どこへ向かうのか。

持続性に黄色信号が灯った、経産省のアンケート調査

 誤解があるといけないので話の流れを最初に整理しておく。東大阪市のセブン-イレブンが人手不足を理由に深夜休業に踏み切りチェーン本部と対立、これがメディアやSNSにより広く知れ渡り、世論や有識者を巻き込んで「24時間営業問題」に発展した。

 2019年2月、加盟店オーナーが起こした「反乱」が社会問題化していく。この「反乱」が起点となったと見る向きもあるが、実はそうではない。

 経済産業省はコンビニ加盟店の経営実態に懸念を抱き、18年12月から加盟店に向けて大掛かりなアンケート調査を実施している。告知はチェーン本部を通し、回答は本部が関わらないようにウェブページに直接の入力方式とした。5年前に同様の調査を実施し、その変化を検証しようとしたのだ。回答はチェーンに偏りなく1万1,307人から得ている。

 「人手不足」に関する質問では、「従業員が不足している」と回答した割合が5年前は22%だったが、19年は61%に跳ね上がる。コンビニ従業員の雇用環境が急激に悪化したのだ。「チェーン本部との関係性」について、「あなたは加盟したことに満足していますか」の質問に、不満に思っている加盟店オーナーが5年間で17%から39%へと倍増する。

 その理由の上位2つが「想定よりも利益が少ない」と「労働時間/拘束時間が想定していたより長すぎる」。従業員の不足、深夜帯の割増賃金、長すぎる労働時間を鑑みると、加盟店オーナーが深夜帯に入らざるを得ない店が数多く存在することが容易に想像できる。チェーン本部は、加盟店オーナーが深夜帯のシフトに入らずに、経営全般をバランス良く見るように指導するものの、改善に至っていない。

 とくに年間約3%上昇する「最低賃金」はコンビニ経営にダメージを与えている。昼間のピーク時3人、アイドルタイム2人、深夜帯1人といった最少人員で回している店などは、これ以上の人員調整ができなくなっている。

 東大阪市の加盟店が深夜営業を本部の同意なしで実行する以前から、経済産業省も加盟店の経営状況を危惧し、実態調査に乗り出していたことがわかる。

世耕弘成経済産業大臣(当時)
世耕弘成経済産業大臣(当時)

 世耕弘成経済産業大臣(当時)は、昨年4月5日、チェーン本部(日本フランチャイズチェーン協会に加盟する8社)のトップを集めて「意見交換」を実施、月末にはチェーン本部から「行動計画」が一斉に発表される事態となった。

 世耕大臣が最も注視したのがコンビニの「持続性」である。社会のインフラ、生活のライフラインと呼ばれるコンビニは、単に弁当や飲料、日用雑貨を販売するだけでなく、宅配便の受け渡し、公共料金の支払い、住民票の交付、ATMなど各種サービスを提供、さらには自然災害時の拠点になるなど、非常に大きな役割を担うに至っている。

 ところが経産省の先のアンケート調査では「次回のフランチャイズ契約更新」については、5年前の調査と比較して、「更新したい(経営を続けたい)」が68%から45%へと減少、「更新したくない(経営をやめたい)」が17%から18%へと微増ながら「わからない」が16%から45%へと増加、すなわち「更新したくない」「わからない」の計が33%から63%と急増しているのだ。コンビニの持続性は大丈夫なのか。経産省の担当官は取材に対して「放置してよい話ではない」と筆者に語ったが、現状改善に対する強い意思も感じ取ることができた。

 もちろん、各チェーン本部も加盟店の会計業務を代行しているわけだから内実はよく承知している。すでにセブン-イレブンは、加盟店の売上総利益から得るチャージの1%特別減額を17年9月からスタートさせている。当時(17年4月)の説明によると、加盟店の収入と加盟店の支払う人件費が、ほぼシンクロして上昇していた。その後も社会保障費の支払い厳格化や、最低賃金の高騰により、現状の利益配分では追い付かないと判断、本部にとって営業収益に直結するチャージの減額は創業以来の異例の措置であった。その後もコンビニ業界全体で状況が好転せぬまま19年度を迎えて一連の騒動となったのだ。

(つづく)

<プロフィール>
梅澤 聡(うめざわ・さとし)

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中に『東京学生映画祭』を企画・開催(映画祭は継続中)。1989年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は両誌の編集委員を務める。アジアのマラソン大会と飲食店巡りをまとめた『時速8キロのアジア』を商業界オンラインに連載中。

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