2024年04月19日( 金 )

効率性重視の20世紀型建築からもっと自由で“樹木"のような建築へ――(後)

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建築家 有馬 裕之 氏

アクロス福岡
アクロス福岡

もっと自由な発想で開放的な建築を

 ――今の建築物の大多数は竣工した時点がゴールで完成形であり、それ以上の拡張性や自由さなどの“遊び”の部分がほとんど残されていません。有馬さんが手がけられた「アクロス福岡」のように自然的な要素が盛り込まれていると、次に訪れたときには季節の変化が感じられるなど、発展性や拡張性があります。そうしたものが、これからは必要になっていくと感じます。

 有馬 都市化のなかの高層ビルを見ていると、個々の高層ビルのなかでは最適解は成立しているかもしませんが、周囲も含めて考えると、最適解とは到底いえない環境をつくってしまっています。もっと大きなことでいうと、まさに地球環境を守ることがこの社会の最大のテーマになってきていますが、20世紀のような建築を続けていたら、我々は“デッドエンド”を迎えてしまうような気がします。それでは、どうすれば我々は次につないでいけるのでしょうか。

 その1つのヒントとして、樹木に着目してみるのはどうでしょうか。1本の樹木は、実は周囲の環境の影響を受けていて、相対的にお互いの関係性のなかで、自分を規定しています。そのために、あれだけ非常に複雑なかたちになっているのです。隣の木との関係や、太陽との関係、風との関係、地面と水との関係など、そうしたさまざまな要素を取り込みながら、大きな関係性によって1本の樹木がつくられています。つまり、そうした発想が21世紀の建築には絶対に不可欠だと思っていますし、先ほどから話しているオートポイエーシス的な要素ではないかと思います。

 建築に当てはめると、まさにフラクタルで、もっともっといろいろな人が関係できるような、表面が入り組んだりした有機的なデザインの在り方はどうでしょうか。

アクロス福岡

 アクロス福岡でいうところのステップガーデンのように、緑の棚をたくさんつくって自然の要素を取り込み、皆が楽しめるようにしていく仕掛けです。また、アクロス福岡は、都市のなかにおける森や山のようなイメージですが、ああいったものを見ていると、地面に建築という人工物が建ち上がっているのではなく、地面がそのまま盛り上がっているようにも思えます。まさに、地球の表面が盛り上がって、そこに新たな土地が増えたようなイメージであり、建築をつくることでそれだけ地表面が増えたという捉え方です。

 そうした、単に緑が屋上にあればいいというようなレベルを超えて、もっと根本からオートポイエーシス的な発想で、緑を含めて「建築はどうあるべきか」を考えていくような方向性もあるのではないでしょうか。

 しかも、そうしたフラクタル的で複雑な建築を実現するための構造解析の仕方も、段々と進化してきています。AI技術なども投入されたことで、昔と比べてものすごく複雑な構造解析ができ、建築においてのかなりのチャレンジが可能になってきています。

 余談になりますが、実現はしなかったものの、ザハ・ハディドの設計した新国立競技場などは、あれは構造力学どころか、戦闘機などの流体力学みたいなことの新しい概念の設計でできていますので、当時の日本の構造解析のプログラムではできませんでした。コスト的な要因などで白紙になってしまいましたが、もしあれを実現できていたならば、日本全体の建築技術の向上に、ものすごく寄与したのではないかと思います。そういう意味では、ザハ案が流れたことは、日本の建築業界にとっては残念だったのかもしれません。

 それと、今は構造が画期的に進化しているという話をしましたが、また別のイメージとして、建築物に対してどこか1カ所の玄関から入るというような単純なものではなく、オートポイエーシス的なことでいうと、面的に地形が巻き上がっていって、いろいろな場所から入れるようなやり方というのが、模索される段階になってくるだろうと思っています。

 それは、AIによって可能になります。人間のオン・オフ、出入りが自動定量できる時代になってきていて、昔のように警備員がいなければならない、というものではなくなってきました。自然の山などは、いろいろなところからアプローチできるから皆に親しまれるわけです。これまではセキュリティ面で不可だったものも、AIなどの技術革新によっていろいろなセキュリティや制限がうまくできるようになると、もっと自由な発想で、皆が自由に使えるような、開放的な建築が実現可能になってくると思います。

 20世紀の建築は“床本位制”で、床が積み上がってそこにセキュリティがあり、外部との関係性を遮断したような状態でした。ですが、これからはそうではなく、いろいろな人がいろいろなかたちで使える仕組み―従来型の床が積み上がるような古いタイプではなくて、もっと流動化させて、ある意味ではお互いに化学変化を起こすような、そういう関係の建築の在り方で“床流動性”とでもいうべき、横の連続性だけでなく、縦の連続性もうまくつくりながら動いていくような方向性に、世界的な潮流はなってきています。

 そして、“これまでの均質志向の建築からどうやって逃れるか”ということが、本当に重要になってきています。やはり私が建築家として目指していきたいのは、“非常に不均質で自然で多様な状態の建築が湧き上がってくるようにつくれないか”というものです。その模索からしていくと、樹木とか森、さらに日本の伝統的な“鎮守の森”のようなものが、大きなヒントになるのではないかと思います。ある意味では建築もこれからは、人の活動がそこにまとわりつくということに対して、いろいろな意味で応えていかなければなりません。

 私も“建築とは何か”ということを考えると、やはり“人を活き活きとさせるもの”という原点に戻りたいと思っています。これからの10年、20年というのは、建築が自然や人間との関係を、どうやってもう一度取り戻せるか――ということに尽きるような気がしています。

【坂田 憲治】

<プロフィール>
有馬 裕之(ありま・ひろゆき)

 1956年、鹿児島県生まれ。80年に(株)竹中工務店入社。90年「有馬裕之+Urban Fourth」設立。さまざまなコンペに入賞し、イギリスでar+d賞、アメリカでrecord house award、日本で吉岡賞など、国内外での受賞歴多数。作品群は、都市計画から建築、インテリア、グラフィックデザイン、プロダクトデザインなど多岐にわたり、日本・海外を含めたトータルプロデュースプログラムを展開している。近年はその一環としてニューヨークでMIRROR IN THE WOODSという法人組織を立ち上げ、多様なタイプの音楽&アートを実行するチーム組織を編成し、街のなかでの参加型システムによるコミュニケーションプロジェクトを進めている。

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