2024年04月24日( 水 )

【検証:熊本】市役所移転・建替えに揺れる熊本市(後)~〈西日本随一〉アーケード街の浮沈握る

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熊本地震による被災で移転、再建された姿をアピールする熊本市民病院=熊本市東区東町4丁目/同病院のHPから
熊本地震による被災で移転、再建された姿をアピールする熊本市民病院
=熊本市東区東町4丁目/同病院のHPから

■市役所建て替えは必要か?

 熊本地震から2年半が過ぎた18年11月。熊本市長選で大西一史氏は、共産党新人との一騎打ちを制し再選された。市議会も19年4月の統一地方選で顔ぶれが一新された。

 市議会はさっそく、同年5月に「庁舎整備に関する特別委員会」を設置。同8月には、広島国際大学工学部元教授の斎藤幸雄氏と東京理科大学工学部教授の高橋治氏を参考人招致して意見を聴いた。斎藤氏は日建設計に34年間、高橋氏は構造計画研究所に24年間の勤務経験がある。

 斎藤氏は「現庁舎の耐震性能は十分」とし、高橋氏は「市の耐震性能調査はおおむね妥当」とした。

 さらに斎藤氏が「(市役所付近で)震度6強の熊本地震に耐えた事実を最重要視すべき」と強調したのに対し、高橋氏は「過去の地震に耐えたことが、将来に地震被害がないことにはつながらない」と主張、真っ向から食い違った。

 市の耐震性能調査では地下構造物の影響が考慮されていなかったため、斎藤氏は「基礎杭や地中連続壁の影響を考慮した解析をすべき」と指摘。市は半年間かけて地下構造物の効果を踏まえた耐震性能を調べるとする一方で、庁舎整備の検討も進めるとした。

 ただ、「本庁舎は耐震性があり、補強の必要がない」とする斎藤氏の主張は、市の耐震性能調査そのものの信ぴょう性を疑わせた。このころから、市民の間で市役所建替えの賛否論争が盛んになり始めた。

 「市庁舎建替えは400億円以上かかる」「仮に耐震補強が必要でも、技術の進歩を考えると現庁舎の耐震補強工事ができる。それなら100億円もかからない」といった全面建替えに否定的な経済人も現れた。

 ところが市は、現地建替えは敷地外工事をともなうため電車通りなどを1年間ほど通行止めする必要があり、同一地での業務と工事は難しいとして移転を強調。現庁舎を起点にすると、直線距離で500mほど北東に離れた白川公園、電車通りを挟んで南西に200m足らずの市役所花畑別館跡地、ほぼ南側に隣接する市営駐車場敷地の3カ所を移転候補地に挙げた。いずれも市有地か敷地の大半が市有地の場所。財政負担が軽く、業務に支障をきたさないとした。

 市が作成した3案のうち市議会では、白川公園に本庁舎と区役所を移転し建物を分ける案と、白川公園に本庁舎を、花畑別館跡地に区役所をそれぞれ移転、新築する案の2案を有力視する。どちらの案にしろ、1923(大正12)年12月から熊本城天守閣を見守ってきた地から市役所が消える。

熊本市役所本庁舎の移転、建て替え地に有力視される白川公園=熊本市中央区草葉町
熊本市役所本庁舎の移転、建て替え地に有力視される白川公園
=熊本市中央区草葉町

■変わる人の流れ~アーケード街の浮沈握る

 有力2案によると、どちらも建物の延床面積は本庁舎4万4,500m2、中央区役所7,500m2。現市役所本庁舎は1981年の完成。建物は地上15階・地下2階建て。高さは62.1m。延床面積3万8,362m2。完成当時の市の人口は53万人台だった。

 外観が似ている福岡市役所本庁舎は1988年の完成で、人口は120万人台(当時)。地上15階・地下2建て。高さは64.5m。延床面積6万1,795m2。高さや外観はほぼ同じ。違うのは延べ床面積で、建物の“厚み”が異なる。

 仮に福岡市役所本庁舎の延床面積を100とすると、熊本市役所本庁舎は62。建替え後は72となる。

 人口は福岡市159万6,000人(3月1日推計)に対し、熊本市は73万9,000人(2月1日推計)。人口比でみると、地域事情を考慮しても、建替え後の熊本市役所本庁舎の規模は大き過ぎるように思える。

 熊本市は現庁舎の地下構造物の調査を9月まで続け、耐震性能の再評価結果を公表。市議会での本格審議に臨む。市が自由に使える貯金・財政調整基金の残高は17年度末で48億円。07年度以降では最低に落ち込んでいる。一方、発行済み地方債(市債)の償還に充てる市債管理基金の残高は17年度末で54億円。熊本地震にともなう災害復旧事業債の後年度償還に備えた積み増しを始めたばかり。

 そんな中、気になるのは西日本一のアーケード街・上通と下通の商店街の出方。桜町の再開発に続き、JR熊本駅と周辺エリアでJR九州主導の副都心づくりが進む。

 終われば、市の商業集積の“重心”がシフトする可能性が高い。「100年近く市役所があったおかげで、本庁舎に勤める3,000人の職員が買物客として期待できた。移転してしまえば、これまで通りとはいかないだろう。皆で真剣に考えないと……」

 上通商店街に店を構える老舗企業の役員は、溜息交じりにそう話す。

(了)
【重原 功】

(前)

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