• このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年03月17日 11:00

新型コロナウイルスと同調圧力、そして忖度(空気)(後)

大さんのシニアリポート第86回

 新型コロナウイルスが流行しはじめて数週間。私の周囲にもさまざまなかたちで問題が表面化しはじめている。「同調圧力」である。私が運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)にも冷たい視線が降り注ぐ。「ぐるり」は高齢者の居場所である。疾患をもつ高齢者が少なくない。カラオケともなると、33平米の狭い空間に20人を超す高齢者で身動きがとれない状態。新型コロナウウイルスに感染し重症化しやすい典型的なパターンなのだ。でも、そう簡単には閉めることができない事情があるのだが…。

 思えば、「ぐるり」の立ち上げはあくまで私自身の勝手な思い込みからスタートさせたのだ。現在住んでいる公的な住宅の集会場で、自分の思う「居場所」を展開することに限界を感じていた。そこで、隣接するURの空き店舗を借りて再スタートさせた。2013年年末のことである。

 住民が一緒に集うことで、孤立を防ぎ、孤独死からの回避を目論んだ。社協からの支援の条件は、「最低月2回以上の実施」なのだが、「好きなときに開いているのが居場所」という思いから毎日オープンさせた。しかしこれは表向き。実情は毎日入る「日銭」がほしかったのだ。開けていても閉めていても家賃はかかる。それなら、毎日開けて日銭を稼ごう。それでも当初は維持するだけで精一杯の状態だった。

 転機は現スタッフMさんが持ち込んだカラオケの機材だった。さらに偶然スナックを閉めるという店のオーナーからBOSE社製の高性能のスピーカーをいただいた。Mさんが持ち込んだカラオケ用のアンプとの相性抜群。実にいい音で鳴りきる。室内用の大きなモニターのほかに、歌い手専用の小型モニターを特設のステージにセット。ミラーボールまで取りつけた。まるで街中にあるカラオケボックスである。たちまち噂が広がり、カラオケ好きが集まりはじめた。来亭者の希望で、週2回が3回になり、4回に増えた。間違いなくカラオケ屋なのだが、正直これで運営が楽になった。

 残りの曜日も、「子ども食堂」や「IT茶話会」(インターネットをスクリーンに映し出し、昔の風景を見ることで当時に思いをはせる「回想法」)、「トコろん元気百歳体操」(手足に錘を負荷して筋肉を鍛える)、「ユニバーサル・スポーツ」(老若男女、障害者も健常者も一緒にやるスポーツ。「ぐるり」では「ボッチャ」(赤と青のボールを白い「的球」にできるだけ近づける競技)に取り組み、来亭者が増えた。「映画観賞会」も復活させた。それに社協の相談員による「よろず相談」、障害者施設のパン販売。懇意にしている葬儀屋の「就活相談会」。そのほか通常の「茶話会」(おしゃべりの会)などが1カ月のカレンダーを埋め尽くしている。それが全部白紙になった。そして無収入になった。

 近くのスーパーに人が並びはじめたのは、「ぐるり」を閉めて間もなくだった。それがトイレットペーパーを買い求める人たちだと気づいた。マスクがドラッグストアなどから消えたことは、それ以前から知ってはいた。トイレットペーパー以外にも、米、レトルト食品、総菜品などが店の棚から消えた。まるで昭和48年の「オイルショック」の悪夢を見ているようだ。ひたすら並ぶ人たちを見て正直あさましいと思った。醜いとも思った。我が家ではあえて並ぶことを拒否した。幸いなことに、知人がマスクもトイレットペーパーも差し入れしてくれたので当座の心配を回避することができたのだが、さし迫った状況になれば、私もあさましい集団の一員になるのだろうか。

 政府は「マスクもトイレットペーパーも十分にある」を連呼するが、店頭に品物がない状態を知った消費者は、とりあえず買いに走る。「予知不安」がそういう気持ちをより一層際立たせることは間違いない。「学習能力があるのが人間だ」と偉い人はいうが、「学習しないのが人間」「人はどこまでも自分勝手」だと私は本気で思っている。

 各地で起きる地震、津波、天災、原子力、戦争…。過去の歴史が証明しているにもかかわらず、人は同じことを平気で繰り返す。地域のコミュニティや集団の同調圧力には沈黙し、権力者への忖度、空気を読む術にはますます磨きがかかり、自己保身に走る。そういう私も周辺の空気を読み「ぐるり」を期限付きながら閉じた。「世界は滅びのスパイラルに入り込んでいる」などと格好いいことをほざく前に、4月以降の運営費をいかに捻出すればいいのか。新型コロナウイルスをうらんでも仕方がないのだが…。

(了)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)など。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2020年06月04日 13:30

「スポーツガーデン香椎 開発プロジェクト」着工~“食と健康のグッドサイクル”を提案する複合商業施設へNEW!

 地域で半世紀以上親しまれてきた「スポーツガーデン香椎」。多くの人がここでの思い出を懐かしく感じるだろう。その跡地での再開発概要がようやく明らかになった...

2020年06月04日 13:00

まちかど風景・西区~駐車場に共同住宅2棟NEW!

 福岡市西区北原1丁目。JR「九大学研都市駅」から徒歩5分程度の場所にある、パチンコホール「パーラーひまわり」の駐車場に、共同住宅2棟が新設される...

2020年06月04日 11:31

(有)黄鶴(千葉)/結婚式場・中華レストラン経営NEW!

  破産手続申請準備中 負債総額 約10億円  同社は、6月1日までに事業を停止し、事後処理を弁護士に一任。破産手続き申請の準備に入った。  担当...

2020年06月04日 11:16

アダル・武野龍社長インタビュー~5月11日から新総合工場稼働NEW!

   データ・マックスは2日、先月から新総合工場を稼働している(株)アダルの武野龍社長に工場建設の経緯などを聞いた。

2020年06月04日 10:45

都市計画法などが改正 防災対策で開発規制、移住促進もNEW!

 災害ハザードエリアにおける新規立地の抑制などを盛り込んだ、都市計画法および都市再生特別措置法の改正案が成立した...

2020年06月04日 10:35

【DMN動画】ステーキの名店「和田門」が閉店 レモン・ステーキ発祥の店NEW!

 「博多和田門」は1971年の開業以来、福岡だけでなく全国からその味を求めて来店する人がいるなど、長年その味が親しまれてきました...

2020年06月04日 10:00

【コロナと対峙する企業】日産自動車~赤字6,712億円は、カルロス・ゴーンの「負の遺産」の清算だ!「平時リーダー」の内田誠社長は「有事リーダー」のゴーン前会長を超えることができるか(後)NEW!

 カルロス・ゴーン氏が「有事」のリーダーとして、修羅場で鬼と化したのは、権力を集中する凄まじいまでの我欲にあった。猛禽類のような鋭い目をしたカルロス・ゴーン氏を、あく...

2020年06月04日 09:30

杭に関する施工偽装!杭の不適切な切断とデータ偽装!(後)NEW!

 既製杭は工場で所定の長さで製造され現場に運ばれてくる。杭を埋設する孔を掘削した際に、想定より浅い岩盤や地中障害物などにあたり、所定の深さまで掘削できない場合がある。...

2020年06月04日 09:00

視界不良の2020年消費~流通大手イオンはどう動くか(中)NEW!

 では、イオンがどのようにして現在の姿になったのか簡単に見ておこう。 イオンの源流の1つが岡田屋(三重県)だ。七代目である岡田卓也氏(現・イオン名誉会長相談役)が19...

2020年06月04日 07:00

“ウィズコロナ”の世界で不動産テックは根付くのか(後)

 無論、すべてがテレワークで完結できるわけではない。自社がテレワークを導入しても、取引先が対応していない場合は、どうしても来客対応やFAXで届くマイソクの確認などの必...

pagetop