2024年05月27日( 月 )

実現するのか?名古屋城の木造復元プロジェクト(後)

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 名古屋市は現在、名古屋城天守閣の木造復元を進めている。名古屋城には、1800年代に作成された「金城温古録」のほか、昭和初期に計測された「昭和実録図」など建造物に関する詳細な資料が残されている。名古屋城は、名古屋というまちのシンボルであり、主要な観光資源でもある。これらの資料を基にオリジナルな天守閣が復元されれば、国内に類例のない観光名所になる。そう考えた河村たかし市長の下、2015年にプロジェクトは動き始めたが、いまだ(20年3月時点)工事に着手できていない。

障がい者団体が猛反発

 市は18年5月、復元大天守閣内にエレベーターを設置しない方針を公表した。バリアフリーに対応したエレベーターを設置すると、その空間確保のため、柱や梁を一部欠かざるを得ないだけでなく、エレベーターの重さを木造の架構で支えられないため、鉄骨のフレームで補強する必要がある。それでは“オリジナルな木造復元”といえなくなるからだ。

 ただし、「バリアフリー化しない」と言っているわけではない。市では、エレベーターではなく、パワーアシストスーツを用い、補助が必要な人をカゴのようなものに乗せるなどの新技術の活用を検討している。「木造復元とバリアフリーの両立」は、技術提案を募る際の要求水準書にも盛り込まれるとのことだ。

 この措置に対し、障がい者団体から「差別だ、人権侵害だ」などと批判の声が挙がった。名古屋市では、バリアフリー対策に関する説明会を開催するなど、約12の障がい者団体の理解を求めてきたが、「昇降技術にはエレベーター以上のものはない」として、意見の対立が続いている。障がい者団体は、エレベーター設置の実現のための実行委員会を設立し、対抗姿勢をあらわにしている。

 市の担当者は「市は、新たな昇降技術について、障がい者団体と何度も対話を重ね、理解を求めてきた。名古屋城へのエレベーター不設置が、団体活動のシンボル化している現状はとても悲しい。具体的な新技術を示して、理解を求めていきたい」としている。

木造復元PJ自体の観光化も

 名古屋城の木造復元は、歴史ロマン溢れるプロジェクトだ。その趣旨に賛同する市民も多いだろう。河村市長の志そのものは了としたい。500億円に上る事業費は小さくないが、完了後の観光魅力の創出を考えれば、必ずしも不合理な投資とはいえない。それだけに、東京オリンピックに間に合わせることにこだわり過ぎたあまり、石垣調査、保全が疎かになり、結果的に文化庁の許可が得られなかったのは残念だ。「急いてはことを仕損じる」の典型だといえる。早期完成ありきではなく、専門家などの意見に真摯に耳を傾け、粛々と事業を進めていくことこそ、一番の近道ではないだろうか。

 天守閣のバリアフリー化については、もちろん可能な限り配慮する必要があるが、エレベーターの設置は、オリジナルな復元というプロジェクトの趣旨に照らして、艶消しも甚だしい。エレベーターを設置するくらいなら、木造復元そのものを見直すのがスジだと思われる。

 文化庁の許可が出たとしても、全国的に宮大工や石工などの職人不足が指摘されているなか、短兵急に工事を進めようとするのはリスキーだ。仕切り直しも厭わないスタンスでじっくり取り組むのが得策だろう。熊本城の復旧工事では見学を観光化しているが、これを参考に「名古屋城木造復元プロジェクト自体の観光化」という方策などもあって良いと思われる。

 ところが3月2日、名古屋城西之丸に整備中の重要文化財展示収蔵庫の外構工事の際、地下に埋まっていた米蔵の遺構(石)を誤って破壊するという事故が発生した。本来、工事に立ち会うはずの学芸員が立ち会っていなかったようだ。天守閣と別工事とはいえ、石垣ファーストを宣言した矢先だけに、間が悪いことこの上ない。市はよほど気を引き締めてことに当たらないと、文化庁はもちろん、市民からも見放されてしまうかもしれない。

 河村市長に倣って名古屋弁でいえば、くれぐれも「かんこーしてやりゃーよ(よく考えてやりなさいよ)」と言いたいところだ。

(了)

【大石 恭正】

(中)

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