2024年04月24日( 水 )

“ウィズコロナ”の世界で不動産テックは根付くのか(後)

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6割が対応できず

 無論、すべてがテレワークで完結できるわけではない。自社がテレワークを導入しても、取引先が対応していない場合は、どうしても来客対応やFAXで届くマイソク()の確認などの必要が生じる。デベロッパーであれば、ゼネコンと建築現場で直接確認すべき事項も多い。内勤業務においても、個人情報を取り扱う機会が多く、そのほかにも郵便物や請求書などの整理があるため、業務の完全なリモート化は困難だ。

※マイソク:仲介不動産会社の情報源として、物件の概要、間取り図、地図などをまとめた資料の通称。名称の由来は、資料を作成・配信する情報会社の社名から^

 不動産業界自体が、気合や根性や面談による商談に慣れすぎており、テレワークを行っている会社でも、その実情はなかなか仕事が進んでいないといった指摘もある。福岡のマンションデベロッパーからは、「グループ会社で一部時差出勤は実施していますが、テレワークは行っておりません」という声も実際にあった。

 イタンジ、スペースリー、WealthParkの3社が実施したテレワークに関するアンケートによれば、テレワークを実施している不動産業者は全体の42%(回答社数138社)にとどまり、半数以上がテレワークへの対応ができていないという結果になった。不動産業界全体として見ると、テレワークは思ったほどは進んでいないようだ。

対症療法で終わるのか

 不動産業界として見ればテレワーク導入はまだ道半ばだが、一方で採用している企業が相当数いることもたしかだ。今後は、ITツールの活用を進める企業と、そうでない企業との二極化が進んでいくことになる。ITツールを導入している企業同士で取引を行えば、無駄を省ける分、生産性が向上する可能性も高い。

 不動産テックのサービス領域も日々拡充(イタンジ×ビットキーのセルフ内見『OHEYA GO』など)されており、少なくとも業界の外にいるエンドユーザーは、オンライン上で完結するサービスを好んで利用するようになっていくだろう。ITツールの導入を、緊急事態宣言が解除されるまでの“対症療法”として考えているようでは、遅かれ早かれ淘汰される側に回ることになる。たとえ事業全体のリモート化が無理だったとしても、リモート化の土台を社内に用意しておくことが重要なのだ。

 賃貸物件1つとっても、転勤時期の手続きの簡素化に対するリモート需要は間違いなく高まっている。ソーシャルディスタンスに代表されるように、究極的には「非対面式」が求められる“ウィズコロナ”社会において、エンドユーザーと相対することが多い仲介業者ほど、不動産テックへの対応が急がれる。同時に、複数の店舗を展開している企業は、店舗再編を余儀なくされるだろう。

 「現在ではクラウド上で業務を遂行できるため、店舗を縮小した場合でも、内見時には現地待ち合わせすれば、店舗に依存しない仲介業務にシフト可能です。今後は、いかに店舗数を増やすかではなく、むしろ固定費を抑えて、いかに1人あたりの生産性と成約数を最大化するかに勝負がかかってくると思われます」(イタンジ)。

 超高齢化社会における人手不足、コロナの感染拡大防止を大義名分とする越境の制限。コロナ以前のように、業務効率の差をマンパワーで埋め合わせすることはもうできない。もはや、気合と根性では、時代の潮流に乗ることはできないのだ。

(了)

【代 源太朗】


不動産テック業界の注目分野とは

(一社)不動産テック協会 代表理事 赤木 正幸 氏

 内覧や現地調査、商談、社内会議などのウェブ会議ツールは追い風でしょう。また、電子契約や業務管理ツールも注目されています。逆に、インバウンド需要を見込んだシェアリングサービスなどは向かい風といえます。業界は、これらに変わる新たなポストコロナのビジネスチャンスを探っているところです。

 私自身が手がける不動産売買業務支援システム「キマール」についても、社外との緊密な情報のやり取りだけではなく、社内会議や社内の情報共有のために活用したいという、テレワークに対応するためのニーズが増加しています。ただ、業界全般として見ると、テレワークや在宅勤務が導入されるとは思ってもいなかったように見えます。準備をまったくしていなかったので、ひたすら早期収束を願っているのが現状です。

(前)

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