国家インフラに「負担金」不可解(後)
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整備の課題は財源と地元理解
新幹線整備がなかなか進まない理由は、国に財源がないからだ。
なぜ財源がないかといえば、緊縮財政の考えのもと、「基礎的財政収支(プライマリー・バランス)」の「2025年度黒字化」に向け、支出を抑制しているからだ。現政権でこの考えは徹底していて、コロナショックに対する緊急経済対策でも、財政支出(新規国債、いわゆる真水)をわずか20兆円程度(GDPの約3%)しか出さない見込み。まさに筋金入りの緊縮政権だ。このような政策が続く限り、基本計画路線の早期実現の可能性は極めて低いと言わざるを得ない。
ちなみに、アメリカのコロナ対策関連の真水は220兆円(2兆ドル、対GDP比約10%)に上る。財源以外にも、いかに地元住民の理解を得るかという難題もある。
基本計画路線が残る地域の多くは地方部であり、住民の通勤や買い物、旅行などの移動手段はほぼ自動車。新幹線が通るといわれても、そのメリットをイメージしにくい。しかも、そのメリットを享受できるのが15年、20年先となれば、皆が自分事としてとらえるのは難しいだろう。すでに新幹線整備が始まっている長崎県でも、新幹線のメリットを理解していない県民は少なくないという話を聞いたことがあるが、日々の生活や仕事に馴染みのない交通インフラについて、そのメリットをイメージするのは酷な話だということだ。
新幹線のメリットを享受するのは、新幹線の沿線住民だけでなく、接続される都市部の住民も含まれる。九州新幹線でいえば、メリットを享受しているのは熊本県、鹿児島県民だけでなく、福岡県民もだ。北陸新幹線でいえば、石川県民だけではなく東京都民もだということだ。
都市部から地方へ、地方部から都市へと新幹線に乗って人が訪れることで、両者が活性化される。新幹線によるメリットとは、そのような循環が軌道に乗ってこそ、沿線外を含めた路線網全体にもたらされるのではないか。
新幹線メリットは、限定された地域の「住民」ではなく、すべての「国民」のものだと再認識する必要があると思われる。そうだとすれば、「四国新幹線のために四国の人間こそが汗をかくべきだ」という考えは、どこかズレているように思われる。
波床教授は、「現行のスキームは『新幹線がほしいなら、負担金を出せ』というものだが、国家的なインフラは本来そのようなカタチで整備するものではないはずだ」と指摘する。地元負担を課した現行のスキームは、本来国家が責任をもつべき鉄道インフラの在り方を歪めていると換言できる。
新型コロナウイルスにともなう外出自粛の影響により、JR各社が大打撃を受けているようだ。これまで経営的に安泰だったJR東日本、JR東海、JR西日本でさえ、19年度連結決算(19年4月~20年3月)は、前期比で軒並みダウン。コロナの影響は期末の2カ月程度であることを考えると、今期はさらに厳しい数字が並ぶことが予想される。
もともと赤字まみれだったJR北海道やJR四国に至っては、さらなる業績悪化は不可避だろう。この期におよんで「経営自立」を求め続ければ、2社が早々に経営破綻するのは確実。この際、潰してしまって再び国有化し、再建するのも選択肢としてはあり得る。国有化を機に、整備新幹線スキームの枠外で新幹線を整備すれば、結果的にナショナルミニマムが日本列島の主な島に行き渡り、まさに「ケガの功名」という展開も期待できるが、はたしてどうなるか――。
(了)
【大石 恭正】
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