2024年05月02日( 木 )

【川辺川ダムを追う】川辺川ダム建設中止、決めたのは誰だ?(2)

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 「令和2年7月豪雨」により、熊本県南部を流れる球磨川が氾濫し、流域市町村で死者65名、9,000棟を超える家屋被害が発生した。球磨川は過去に何度も氾濫を繰り返してきた“暴れ川”だが、記録が残るなかでは、今回が過去最大級の水害だといわれる。球磨川の支流である川辺川では、1969年以降、総貯水容量1.3億m3を超える治水ダム「川辺川ダム」の建設が進められていたが、2008年に蒲島郁夫熊本県知事が「ダム建設計画の白紙撤回」を表明。09年にダム建設中止が決まった。

 以降12年間、国や県、流域市町村などは「ダムによらない治水」をめぐる検討を続けてきたようだが、実際に有効な治水対策が講じられることはなく、今回の水害を招いた。「ダム建設中止は、政策判断として正しかったのか?」「ダムによらない治水とやらは、なぜ実行されなかったのか?」「水害後も治水政策は変わらないのか?」――などいろいろと疑問が湧く。今回の水害を機に、川辺川ダム建設中止をめぐるこれまでの経緯などを追ってみた。

川辺川ダム建設、民意を背景に白紙撤回

 ついに本格的なダム工事に入ると思われた矢先の08年3月、蒲島郁夫氏が熊本県知事選に初当選。蒲島知事は同年9月、「ダムに頼らない治水」を目指すとして、川辺川ダム建設の白紙撤回を表明した。当時民主党政権だった国も09年9月、川辺川ダムの建設中止を表明。熊本県の要望によって始まった川辺川ダム建設が、40年後に同じ熊本県の意思によって、ひっくり返されたわけだ。

 ダム建設がストップする以前の09年1月、国土交通省九州地方整備局、熊本県、流域市町村をメンバーとする「ダムによらない治水を検討する場」を設置し、ダム以外の治水対策についての検討をスタート。同年3月、「球磨川治水対策協議会」を新たに設置し、引き続き検討を重ねた。10年におよぶ検討の結果、9つの治水対策案が示された。

 9つの治水対策案は次の通り。

(1)引堤、(2)河道掘削など、(3)堤防強化、(4)遊水地、(5)ダム再開発、(6)放水路、(7)流域の保全・流域対策、(8)宅地のかさ上げなど、(9)輪中堤

 やっとこれらの治水対策を実施するのかと思いきや、いずれかの対策を単独で実施しても、目標とする治水安全度に達しないという検討結果が出た。協議会は現在、10通りの対策案の組み合わせについて検討中のようだが、その進捗などは不明だ。

 主な治水対策の内容などは次の通り。

<引堤>

 球磨川本川(人吉地区)の両岸の幅を引く。引幅は、小さいところで20~30m、大きいところで80~100m。延長は約14km。これにともない、約98haの用地買収、家屋など約620戸、温泉旅館など9施設、金融機関4施設、病院9施設の移転のほか、球磨川に架かる13の橋梁の架替え、継ぎ足しなども必要になる。概算事業費は約2,300億円。

<河道掘削など>

 計画高水位を超過する区間の河岸、河床を掘削する。河岸掘削する区間は12カ所、延長にして12km。掘削量は約21万㎥。河床掘削する区間は14カ所、延長にして約5km。掘削高は最大約3m。掘削量は約140万㎥。球磨川本川(人吉地区)で、河道掘削などと引堤(両岸)を実施した場合の概算事業費は約2,300億円。

<堤防強化>

 球磨川本川(人吉地区)の両岸堤防(土堤と特殊堤)のかさ上げ。かさ上げ高は約0.9m~1.3mで、延長は約24km。これにともない、約13haの用地買収、家屋や温泉旅館、病院など200戸・施設の移転のほか、21の橋梁架替えが必要になる。概算事業費は約1,000億円。

<遊水地>

 河川沿いに周囲堤による掘り込み式の遊水地を17カ所整備する。面積は約1,200ha。貯水容量は約7,000万㎥。周囲堤総延長は約33km。これにともない、約380戸の家屋移転、約1,000haの農地が消失する。概算事業費は約8,200億円。

<放水路>

 川辺川上流部から八代海まで放水路を抜く。延長約25km。断面は直径15.5m×3本。掘削量は約1,800万㎥。工法は山岳工法。これにともない、約4haの用地買収が必要になる。概算事業費は約7,400億円。

<ダム再開発>

 熊本県が管理する市房ダム(多目的ダム)を国が買い上げ、洪水調整専用ダムとして再開発する。堤高を約20mかさ上げし、洪水調整容量は約6,060万m2

引堤イメージ(国土交通省資料より)

(つづく)

【大石 恭正】

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