2024年04月25日( 木 )

そもそも何が「パワハラ」にあたるのか

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 前号において、「パワハラ防止法」の概要についてご紹介いたしました。本号では、そもそも「パワハラ」に該当するのはどういう行為かについて解説いたします。

 パワハラとは、次の3つの要素をすべて満たすものとされています。

 [1]優越的な関係を背景とした言動
 [2]業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
 [3]就業環境を害すること(または身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

 [1]の「優越的な関係」とは、被害者が加害者に対して抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係をいい、典型例は上司による部下に対する言動です。ただし、絶対数としては少ないですが、部下から上司へのパワハラもあり得ます。たとえば、IT企業などの先端技術に関わる業務で、最新の知識を豊富に有する若手社員が、自分よりも知識が劣る上司に対して侮蔑的な発言をする場合や、若手の正社員が工場長として赴任したところ、古株のパート職員が集団で無視するなどです。

 [2]の「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは、社会通念に照らして明らかに業務上必要性がない、またはその態様が相当でない言動を指すとされ、代表的な6つの類型として次のものが挙げられています。

 (1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
 (2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
 (3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
 (4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
 (5)過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
 (6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

 このうち(1)の身体的な攻撃は当然許されず、(2)(3)も通常は業務の遂行に必要な行為と想定できません。(4)~(6)については、当該言動の目的、当該言動が行われた経緯や状況(言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む)、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性などのさまざまな要素を総合的に考慮して判断します。

岡本弁護士

 極端な例ですが、通常の事務所で「この馬鹿野郎」と大声で怒鳴りつける行為はパワハラに該当する可能性が高いですが、危険な現場でヘルメットの着用などの基本的な安全対策もせずにフラフラと歩いている従業員に対して同じ発言をしても、従業員の身を守るための発言であれば、相当な行為といえることもあります。また、同じ注意をしてもまったく改善がされない従業員に対し、注意を重ねるごとに強い口調や強い内容になることはやむを得ないこともあります。

 このように、指導とパワハラの境界は微妙なこともあります。ただし、指導とは「教え導くこと」です。厳しく叱ったり、声を荒げたりすることはあっても、そこには常に「良くなってほしい」「成長してほしい」という思いが根底にあるはずです。部下への対応が、あくまで「成長してほしい」という思いからのものであるか、胸に手を当ててよく考えてみてください。


<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所

住所:福岡市中央区天神3-3-5 天神大産ビル6F
TEL:092-718-1580
URL: https://okamoto-law.com/

<プロフィール>
岡本  成史
(おかもと・しげふみ)弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。

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