2024年04月26日( 金 )

球磨川豪雨検証委員会・川辺川ダムがあれば~球磨川は決壊しなかった可能性を示唆(後)

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ダム建設求める決議文

 流域市町村のメンバーからは、基本的に川辺川ダム建設に前向きな発言が相次いだ。濃淡はあるが、主な発言をピックアップすると、以下のようになる。

<中村博生・八代市長>
 「抜本的、恒久的な治水対策を確実にやっていただきたい」

<森本完一・錦町長>
 「ダムがあったら、被害を完全に防げたのではないか」

<内山慶治・山江村長>
 「流水型ダムだったらもっと溜まったのではないか?」

<吉瀬浩一郎・多良木町長>
 「河道掘削は効果があった。これからも続けてほしい」

<竹崎一成・芦北町長>
 「これからの治水を考えるうえで、川辺川ダムを排除せずに、総合的に検討すべきだ」

 前向きというか、積極的な発言もあった。それもそのはず、同委と同じ流域12の市町村で構成される「川辺川ダム建設促進協議会」(会長=森本完一錦町長)は、同委開催前の8月20日、定期総会を開催し、県と国に対し、川辺川ダムを含む抜本的な治水対策を求める決議文を採択していた。決議文の内容は次の通り。

 これまで幾度となく深刻な洪水被害を経験してきた球磨川流域の住民にとって、7月3日、4日の豪雨は、線状降水帯が球磨川流域および支流川辺川流域に長時間居座り、戦後最大の水害と言われた「昭和40年7月豪雨」を大きく上回るものとなり、流域市町村全体では死亡者65名、行方不明者2名など未曾有の激甚的な災害となった。

 加えて、避難者1,300名余りは、梅雨明けの猛暑が続くなか、心身ともに厳しい生活を強いられ、耐えている。大災害となった被災地の復旧復興を願い思うとき、異常気象が頻発化し、想定を超えた洪水が起こりかねないなか、その前提となる安全安心を確信できる治水対策がわからなければ、住民は生活再建を描くこともできず、また、まちづくりも進まない。

 このような現状を思料するとき、ダムによらない治水の検討の場は、結論さえも見出せない空白の時間であったと考える。今、県および国がなすべきことは、川辺川ダム建設を含めた洪水の検証を速やかに実施し、早急に結論を出すことである。その結果を踏まえ、これ以上将来への不安や生活上の不自由をきたすことがないよう、目標時期を定め、川辺川ダムの建設を含む抜本的な治水対策を講じるべきである。

 「川辺川ダムの建設を含む抜本的な治水対策」とは行政的なレトリックであって、「ダムをやれ」と言っていると解して差し支えないだろう。ダムによらない治水を検討する場について、「空白の時間」と断じている以上、今さらダム以外の治水対策にまだ期待を抱いているとは考えにくいからだ。

 協議会として決議したとはいえ、12市町村のなかには異論を持つ首長はいるだろう。ただ、実際に水害に見舞われた以上、各自のエゴばかり主張していられない状況もある。決議文の文面からは、「同じ轍を踏みたくない」という思いが伝わってくるわけだが、問題は、この思いを流域市町村の総意として持ち続けていられるかどうかだと思われる。

「流域治水」にどうつなげるか

 冒頭にも指摘したが、同委の目的はあくまで豪雨災害に関する検証にとどまる。検証の結果、県を含めて「ダム建設しかない」という地元合意が形成されたとしても、実際にダム建設が復活するかどうかとは別問題だ。これも冒頭に指摘したことだが、県や国のメンバーが何度も「スピード感をもって」と繰り返すのは、逆に「普通に進めていったら、すごく時間がかかる」ことを物語っていると推察される。

 国土交通省は現在、「流域治水プロジェクト」として、流域の市町村、企業などが主体的に治水に取り組む社会を構築するため、全国の一級河川水系ごとにそれぞれ素案をまとめ、流域全体でのハード・ソフト一体の事前防災対策に関する地元での議論を進めているが、球磨川水系のみ素案が示されていない。いうまでもなく、球磨川流域のハード面の治水対策が宙ぶらりんのままだからだ。それを考えれば、球磨川の治水対策の結論を誰よりも急ぎたいのは、九州地方整備局の河川担当者かもしれない。

(了)

【大石 恭正】

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