2024年04月20日( 土 )

球磨川豪雨検証委員会・川辺川ダムがあれば~球磨川は決壊しなかった可能性を示唆(前)

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「スピード感をもって」に違和感

 「令和2年7月球磨川豪雨検証委員会」の初会合が8月25日、熊本県庁で開かれた。7月豪雨の概要や被害状況、ダムによらない治水対策の有効性、川辺川ダムが存在した場合の効果などについて、定量的なデータに基づき検証するのが目的だ。
 ただ、検証とはいっても、同委は国土交通省九州地方整備局、熊本県、球磨川流域12市長村の各トップという当事者のみで構成され、河川工学などの専門家、有識者は一切入っていない。あくまで県、国と流域市町村との間での検証結果に関する認識の共有、合意形成を図るための会合であって、今後同委が何回開催されるか、最終的にどういうアウトプットが出てくるかは未定だ。以下、令和2年7月球磨川豪雨検証委員会資料より引用して検証する。

 席上、挨拶に立った蒲島郁夫・熊本県知事、村山一弥・九州地方整備局長をはじめ、県、国のメンバーからは、異口同音に「スピード感をもって」というフレーズが相次いで聞かれた。市町村メンバーのなかにも、この常套句のようなフレーズが気になった首長がいたようで、「いつまでに答えを出すか明確にしないと、また同じ轍を踏むことになる」という指摘もあった。川辺川ダム建設中止から12年、ダムによらない治水の検討を始めてからすでに10年が経過している。「今さらスピード感をもってと言われても、信用できない」といったところだろう。

ダムあれば2,800m3/s低減できた

 初会合のハイライトは、今回の豪雨による球磨川への流量速報値が示されたことだ。その流量は「概ね8,000m3/s程度」(人吉地点)。市房ダム調整分を考慮すると、「概ね7,500m3/s程度」となる。いずれも、川辺川ダム建設時当初に想定された流量約7,000m3/sを上回る。もう1つのハイライトは、仮に川辺川ダムがあった場合(市房ダム含む)、球磨川への流量を7,500m3/sから約4,700m3/sまで減らす(2,800m3/s分の減少)ことができたと推計したことだ。どういうわけか国は強調しなかったが、現在の球磨川の流下能力が5,000m3/s程度だとすると、川辺川ダムがあれば、球磨川が決壊しなかった可能性があることを示唆していることになる。

 国はこの際、川辺川ダムに貯留される水量を約6,300万m3と推計している。川辺川ダムの総貯水容量は約1.3億m3なので、半分以下しか溜まっていないことになる。今回の豪雨について、「川辺川ダムがあったとしても、未曾有の豪雨だったので、緊急放流した可能性が高い」とする主張があるが、今回国が示した約6,300万m3という数字は、緊急放流のリスクを否定したものだといえる。国の担当者は席上、「(川辺川ダムで)十分貯留可能な洪水だったと推定される」と発言した。

 ダム建設に反対する市民団体などは、水害発災前は「流量7,000m3/sを前提にしたダムは過大だ」という主張を展開していた。つまり、「そんな大量の雨は降らないから、ダムは不要」と言っていたわけだ。ところが、実際にそれは降った。すると、ガラリと論点を変え、「これだけの大雨が降ったのだから、ダムがあったとしても防ぎきれず、緊急放流したはずだ」と主張し始めている。「十分貯留可能だった」という発言には、この手の雑音を黙らせる意図があったのかもしれない。

(つづく)

【大石 恭正】

(後)

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