2024年04月24日( 水 )

史上最悪の経済情勢下で進むアメリカの大統領選挙(1)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

国際政治経済学者 浜田 和幸

 世界が注目した第1回目のトランプ対バイデン両大統領候補者によるテレビ討論は「アメリカ史上最悪!」とまで揶揄された。まさにそのハチャメチャぶりにはアメリカの有権者のみならず、アメリカの行方に関心を寄せる世界の人々が驚いた。アメリカのメディアでは「先に菅総理が選ばれた自民党の総裁選での討論会のほうがよっぽどましだった。アメリカは日本に学ぶべきだ」といった論評まで登場する有り様だった。

剥げたメッキ

 「民主主義の旗手」や「唯一の超大国」といったお飾りのメッキが剥げた瞬間と言っても過言ではないだろう。自らの主張や政策を内外に訴える最高の場であるはずの「大統領候補者による直接対決」は「ウソと罵り合いの場」でしかなかった。ディベート(討論)の基本ルールである「発言時間の順守」や「指定されたテーマについて議論を深める」ことなど、一切が無視されていた。

 とくにひどかったのはトランプ大統領である。バイデン候補が与えられた時間内で発言しているにもかかわらず、何と73回も横やりを入れ、議論を混ぜ返したからだ。司会者はFOXニュースのベテラン記者で、どちらかといえば共和党寄りであったはずだが、トランプ大統領の傍若無人なルール無視の発言には、さすがに何度も注意を促したほどである。

 しかし、そんなことは織り込み済みのトランプ大統領。かつて人気のテレビ番組で司会を務め、「You are fired ! (お前は首だ!)」の決め台詞で一世を風靡した経験の持ち主である。視聴者の気を引く手練手管はお手の物というわけだ。

 真面目な姿勢が目立ったバイデン候補に対して、「ワシントンの政界に47年間もいて、何もできなかっただろう」「お前の息子は薬物乱用で軍隊を除隊させられたんじゃなかったのか」「第一お前は大学を卒業したときの成績はビリだったらしいな」と、言いたい放題。

 さすがのバイデン前副大統領も堪忍袋の緒が切れたようで、「所得税を750ドルしか払っていないウソつき男」「コロナウィルスは自然になくなるのでマスクは要らない、と言いつのり、専門家の意見を聞こうとしなかったため、アメリカは世界最悪の感染国になってしまった。その責任を認めようとしないで、ワクチンはもうじきできると、またぞろ平気でウソをつく」と反論(トランプ大統領は後日、新型コロナウィルスに感染)。

凋落の一途を辿るアメリカ

 極めつきはトランプ大統領が「税金の支払調書を審査が終わり次第公開する」と大見えを切った際に、バイデン候補が発したアラビア語の「インシャラー!」であろう。「神のみぞ知る!」というアラビア語で、イスラム教徒の困ったときの決まり文句だ。

 実は、トランプ大統領は前回の2016年の大統領選のときにも、同じような指摘を受け、「じきに公開する」と答えていたが、4年経っても一向に情報開示しないままである。何しろ、自らのヘアスタイルを維持するために7万ドルの整髪代を「必要経費」として計上しており、税務の専門家からは「いくら何でも問題だ」と指摘を受けているほど。

 さらには、ニューヨーク郊外にゴルフ場建設のために200万ドルで購入した土地が土壌汚染で利用できそうにないとわかると、そのことを隠して2,600万ドルの鑑定書を付けてニューヨーク州政府に寄付をしたのである。それは寄付による税金控除を受けるためであった。今ではこの土地は「ドナルド・トランプ州立公園」の看板だけが残る荒れ地となっている。

 もし、この不正行為が発覚すれば、間違いなくトランプ本人と関わった弁護士や税理士は監獄行きとなる。トランプ一家とすれば、あらゆる手段を講じて再選を勝ち取り、現職大統領特権で逮捕を免れる必要があるわけだ。あと2回のテレビ討論会で、もしトランプ大統領がバイデン候補の息子のウクライナや中国でのビジネス上の不正疑惑を蒸し返すようであれば、バイデン候補もトランプ一家の不正な銀行融資やロシアからの献金問題を暴露するに違いない。それはまさに品位のかけらもない「泥仕合」となるであろう。

 いずれにせよ、こうした状況に多くの国民は失望感にさいなまれているに違いない。これではどちらの候補が大統領になってもアメリカの凋落は食い止められないだろう。日本としてもアメリカの現実を冷静に直視する必要がある。安倍晋三前首相が「シンゾー!ドナルド!」と、ファーストネームで呼び合う信頼関係を築いたと宣伝されているが、アメリカにとっては困ったときのキャッシュ・ディスペンサー的な役割を期待されていただけではなかったのか。それだけ、かつては世界最強の富と指導力を誇っていたアメリカが凋落の一途をたどっている現実から目を反らすわけにはいかない。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

(2)

関連キーワード

関連記事