川辺川ダム建設中止は蒲島知事の判断“今さら民意をタテにするな!”(3)
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前熊本市長 幸山 政史 氏
球磨川流域の治水対策をめぐる、蒲島郁夫・熊本県知事の発言がブレまくっている。発災直後は「ダムによらない治水を極限まで追求したい」と従来の立場を踏襲するそぶりを見せていたが、その後、「新たなダムの在り方も含め検討する必要がある」「ダムも選択肢の1つ」「あらゆる可能性を排除せず検討する」と発言内容が変わってきているのだ。ダム建設の方向へと徐々にすり寄りつつある印象を与えるが、それを察知したのか、一方で「現時点でダムに方向転換したわけではない」とクギを刺した。政治家が意見をコロコロ変えるのは必要なスキルでさえあるが、水害に見舞われた自治体の首長、県民のなかには、いつまでも「蒲島流の政治的駆け引き」につき合っていられないという者も少なくないだろう。そんな蒲島県政に危機感を募らせているのが、前熊本市長・幸山政史氏だ。過去に2回、蒲島氏と熊本県知事選を争った経験をもつ。川辺川ダムをめぐる蒲島的政治手法の問題点などについて、話を聞いた。
リーダーシップが欠如している
――たしかに、まるで「自分の責任ではない」かのような言い方ですね。
幸山 蒲島知事は、今回の水害が発生する前は、しばしば「3つの困難を乗り越えた」と言っていました。3つの困難とは、川辺川ダム建設の中止、水俣病被害者の救済、県の財政危機の健全化を指します。蒲島県政の成果として誇るように言っていました。私は何1つ乗り越えてなどいないと考えますし、そうだというならば、ダムを止めた責任を最後まで負うべきだと思います。冒頭に申し上げた通り、川辺川ダム建設中止の責任は、蒲島知事だけの責任ではありませんが、最も大きな責任を負うのは知事であるべきです。1人の政治家として私が許せないのは、蒲島知事が自ら負うべき責任の所在を意図的に曖昧にしようとしている政治姿勢そのものです。
蒲島知事が最初の選挙を戦ったとき、他の候補は全員「川辺川ダム建設反対」と主張していましたが、蒲島知事だけが川辺川ダム建設について態度を保留していました。態度を保留したまま選挙を戦い、勝利した半年後、白紙撤回を表明したわけです。うがった見方をすれば、選挙戦術的には態度を保留した方がプラスに働くという計算があったのかもしれません。建設反対派、推進派どちらも期待を抱くわけですから。蒲島知事はその意味では「リアリスト」ですよ。
――蒲島知事は「ダムによらない治水を極限まで追求したい」とずっと言ってきましたが、いまだに実現していないのはなぜでしょうか。
幸山 リーダーシップの欠如と指摘せざるを得ません。ダムによらない治水を推進するためには、中止のとき以上に複雑な問題を乗り越える必要があり、強力なリーダーシップ、政治力が必要です。結果的にそれができていないのは、国と熊本県のにらみ合いが続いていたからだとも考えています。物事を止めたり壊したりするのは、ある意味簡単なのですが、新たにモノをつくるために、流域市町村を説得し、意見をまとめ上げるのは非常に難しいことです。ただ、それをまとめるのがリーダーシップであり、政治手腕といえます。
熊本県南部、人吉球磨地域は、人口減少による過疎化が進んでいる地域です。平成の市町村合併でもほとんど合併がなかった地域で、自治体としての規模が小さいところが多い。たとえば、球磨村の人口は3,000名ほどで、役場にも60名ぐらいの職員しかいません。一方で、荒瀬ダムがあった旧坂本村は合併して八代市になっていますが、八代市の人口は熊本市の6分の1ですが面積は熊本市の倍近くあり、旧坂本村の住民からは、行政サービスが十分行き届いていないという声も上がっています。合併の有無に関わらず、熊本都市圏と比べるとあらゆる面での格差が生まれています。これらの地域では、知事のリーダーシップによる県のサポートなしには物事が前に進んでいかないようなところがあるわけです。
――人吉球磨地域のインフラ整備について、どうお考えですか。
幸山 やはり球磨川流域の治水対策は必要です。今回の災害を踏まえて、とにかくスピードアップして取り組まなければなりません。並行して、被災者も含めた流域住民がどこに住み続けるのかも大事です。同じところに住み続けたいという住民もいれば、同じところには怖くて住めないという住民もいるので、合意形成など非常に難しい問題ですが、これを乗り越えない限り、地域の将来の姿が見えてこない重要なポイントだと考えています。
(つづく)
【大石 恭正】
<PROFILE>
幸山 政史(こうやま・せいし)
1989年3月、九州大学経済学部卒業。同年4月日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)入社。95年4月熊本県議会議員に当選(2期)。2002年11月熊本市長に当選(3期)。16年3月熊本県知事選に出馬するも、蒲島氏に敗北。20年3月熊本県知事選に挑むも、再び蒲島氏の後塵を拝した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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