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2020年10月23日 16:34

音楽に見る日本人の正体(3)総集編(後)

大さんのシニアリポート第93回

 拙著「『陸軍分列行進曲』とふたつの『君が代』―出陣学徒は敵性音楽で戦場に送られた」(平凡社新書)の発売から2カ月以上が経った。読者からの反応は実に良い。「一気に読んだ」「学徒を敵国フランス人作曲家の音楽で送るなんて信じられない」「日本人の心の裏にある秘密を垣間見た気がした」など…。
 しかし、寄せられた感想はこれまでの拙著上梓時の反応より圧倒的に少なく、それに比例するかのように販売部数も伸びていない。出版界の現状を踏まえ、拙著を俎上に載せて販売不振の理由について報告したい。

敵性音楽『陸軍分列行進曲』をあえて使う理由

 マスコミそのものが筆者身近な読者同様、「敵性音楽の使用」に関心がないのかもしれない。そのように考えてみると、戦後この問題に触れたのは、管見の限りでは長田暁二氏(大衆音楽文化研究家)の、「昭和18年(1943年)、第2次世界大戦中、内閣情報局が敵性国家の音楽一掃を命じたとき、アメリカ・イギリスはもちろん、いくら昔、日本陸軍に奉職していた楽長とはいえ、フランス人ルルーの作曲も対象になるはずですが、陸軍の象徴たる『分列行進曲』が消滅しては困るので、作曲者の名前を伏せて堂々と演奏しました」(『日本軍歌全集』音楽之友社、1976年)という記述のみであり、他の雑誌や文献では触れられていない。

 長田氏の文章を敷衍(ふえん)すると、当時の内閣情報局は、「『陸軍分列行進曲』は敵性音楽」であることを認識していたことになる。それでもあえて使おうとした理由とは何か…。1つには、『陸軍分列行進曲』に勝る日本人作曲家による行進曲がなかったこと。もう1つは、陸軍省内に「非常に日本的で高い格調をもった見事な行進曲だから、敵性音楽とは気づかれないだろう」という安易な発想があったのではないか、ということが考えられる。

 さらに、敵性音楽であることに気づいてはいても、上部が決めたことに逆らうだけの勇気を持つ関係者がいなかったのだろう。つまり、「空気を読んだ」のだ。忖度したのだ。

 小川近五郎(当時、内閣情報局情報官)が「大和民族三千年の歴史」(『音楽の友』1942年2月号)と大仰に唱えており、彼らのいう「聖戦」を完遂させるというのなら、文字通り純粋に日本人の作曲した行進曲で出陣学徒壮行会を挙行すべきだった。

日本人の本当の姿を映し出す『陸軍分列行進曲』事情

 現在も音楽関係者のなかには、「『抜刀隊』と『扶桑歌』は、日本のために作曲された作品であり、とくに後者は明治天皇に捧げられた。その2つを編曲した『陸軍分列行進曲』は、1902年に正式に陸軍省が制定した行進曲であり、日本政府からその功績を称えられて「勲4等瑞宝章」、「勲5等旭日章』を授与されているため(日本生まれの行進曲として)問題ない」と評する人もいる。しかし、「『抜刀隊』は明治時代の庶民に愛唱された名曲である。それ(『抜刀隊』)を主旋律に用いた『陸軍分列行進曲』であるから問題なし」とするには不自然さが残る。

 政府に認められ人口に膾炙(かいしゃ)していれば、それで問題ないのだろうか。 ロンダリング(洗浄)されたとでもいうつもりなのだろうか。「諸外国のいいところを取り込み、日本風にアレンジする」ことが日本人の持つ特性だとするなら、こうした「究極の禁じ手」を平気で遣うこともあながち日本人の目には奇異に映らないのかもしれない。

 今回、筆者がこの問題を提起しても、多くの日本人が「出陣学徒」のことも「敵性音楽」についても興味を示さなかったという事実のみが残された。恐らく「大東亜戦争」「原爆」「数多くの事件」などについても、時とともに「過去の歴史的事実」として忘れ去られるのだろう。むしろ、当事者として実体験していない事実が、永続的に記憶されることはあり得ないのだろう。戦後75年が経ち、あの第2次世界大戦を記憶している人の方が圧倒的に少ない。これらすべてを踏まえて考えると、この時期にあえて出版したのは出版社としては「読み違え」といえるのかもしれない。しかし、筆者にとって何としても出版しなくてはならない本(テーマ)だった。

 繰り返すようだが、今でも陸上自衛隊の観閲式では、堂々と「ルルー作曲による『陸軍分列行進曲』」と紹介されている。ルルーは『陸軍分列行進曲』を作曲も、編曲もしていない。この無知さ、好い加減さを見るにつけ、何とも言い難い思いが胸をよぎる。しかし、これが日本人の本当の姿なのだろう。

(了)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)など。

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