廃校にAI拠点、小売業界でDX目指す〜トライアルHDが宮若市と連携協定(後)
(株)トライアルホールディングス(以下、トライアルHD)は福岡県宮若市と連携して、廃校となった小・中学校跡に新たな流通形態「リテールAI」の開発拠点「リモートワークタウンムスブ宮若」を設置する。民間企業が自治体と提携したまちづくりプロジェクトで、地域活性化を図るユニークな試みだ。
AI技術開発拠点のほかアートラボも設置

AI技術開発については、Retail AIに所属している技術開発者の活動拠点として、宮若市内にある旧宮田西中学校と旧吉川小学校の跡地を活用。Retail AIが請け負っているレジ機能付き買い物カートやAIカメラの開発業務を移す。現在、中国広東省でAIカメラの開発・生産を行っており、新型コロナウイルス感染症の収束後をにらみ、中国やベトナムから技術者を採用する計画で、21年5月以降に完成する。
加えて、旧笠松小学校跡地では、アパレル・ホームファッションの新たなビジネス創出として「ファッションビレッジ」を開設する。デザイナーやインフルエンサー、コンシェルジュなどを集め、さまざまな商品情報を発信する施設となる。最新のテクノロジーを活用して、まったく新しいかたちのビジネスモデルを構築するアートラボを創設する考え。施設では、ローカル5Gなどを活用した次世代の新しい購買体験の提供を目指す。21年6月以降の完成を予定している。
旧宮田ショッピングセンター跡地では、これら技術開発や新たなビジネス創造を実践できる新たな店舗「スーパーセンタートライアル宮若店(仮称)」も建設予定だ。21年9月中旬の開業を予定している。「メガセンタートライアル新宮店」と同様に、AIカメラによるデータを活用した購買情報の提供だけでなく、キャッシュレス決済機能やレシピのレコメンド機能を備えたタブレットを搭載した買い物カート「スマートショッピングカート」を導入する。

官民一体による相乗効果に注目
このほか施設環境について、同社の従業員寮を旧吉川幼稚園の跡地に建設(21年4月竣工)するほか、脇田温泉の宿泊施設・旧スコーレ若宮(宮若市)を買収。新たにオーベルジュや温泉旅館が一体となった複合施設を建設する。
旧スコーレ若宮は、健保組合が運営していたが、トヨタ自動車九州(株)が買収していた。研修施設としても利用できる施設だったが、本業との関係が薄く、利用機会が少なかったことから手放したという。
トライアルHDは、近隣に保養所を所有していたほか、大分県玖珠郡で「トライアル温泉郷」などの温泉旅館業を行っていたことから、新事業としての取り組みではないものの、まちづくりの一環として、これまでの事業ノウハウを基に再生させていく考え。旧スコーレ若宮周辺の農産物直売所を増築し、地元食材で料理するレストラン「グロッサリア」を開設予定。22年3月ごろの完成を目指す。
過去にない、流通形態の創出をコンセプトとした官民一体の連携。双方にとってどのような相乗効果を生むのかが注目され、結果次第では、ほかの地域にも生かせる新たな地方創生の事例として広がる可能性もある。
(了)
【小山 仁】
(株)トライアルホールディングス 代表取締役 亀田 晃一 氏
東京でAI開発拠点の新設を計画していたところ、新型コロナ禍により、社会および私たちの価値観に変化が生じた。リモートワークで仕事と生活を両立させながら研究開発を進められるとして、昔から縁のあった宮若市に新拠点を設けることにした。
宮若市は博多と小倉のほぼ中間に位置しておりアクセスが良好なうえ、食や自然に恵まれている。この地で自治体と住民と一体となってAI開発のほか、さまざまな事業に挑戦し、新しいライフスタイルを実現できる街として成功させたいと考えている。
宮若市長 有吉 哲信 氏
今回、トライアル社から「リモートワークタウンムスブ宮若」の構想をもちかけられた際、宮若市としては千載一遇のチャンスと捉え、宮若市議会でもこの構想を全体で推進するとの後押しをいただいた。
宮若市とトライアル社の官民一体で進めていく地方創生のモデルケースとして、「リモートワークタウンムスブ宮若」を世界に発信できるよう協力していく。