2024年04月25日( 木 )

コロナ禍を逆手に、アパホテル 新規出店は継続、買収も視野(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

アパグループ 代表 元谷 外志雄 氏

アパグループ 代表 元谷 外志雄 氏

 コロナ禍で厳しい状況が続くホテル業界―閉鎖するホテルも増えるなか、アパホテルはシェア拡大のチャンスと見ている。11月 24日現在、33棟(1万1,568室)のホテルを建築・設計中と、拡大戦略を継続。運営するホテルの稼働状況や地域ごとの収益性、コロナ後の経済回復に向けて先手を打つ出店計画について、アパグループ代表の元谷外志雄氏に聞いた。

(聞き手:(株)データ・マックス 永上 隼人)

20年11月期は黒字着地を見込む

 ――運営するホテルの稼働状況はいかがですか。

 元谷 例年であれば、都内のアパホテルの客室稼働率は、ほぼ100%で推移していました。しかし2020年は、3月は約50%、緊急事態宣言の影響があった4月は約30%、5月は約45%と、コロナの影響で非常に厳しい状況でした(図参照)。緊急事態宣言が解除され、6月になると都道府県をまたいだ移動制限が緩和されたため、約72%まで回復しました。7月22日からは、「Go To トラベル」が開始されましたが、コロナ感染拡大や東京都除外の影響を受けて7月の客室稼働率は約57%、8月は約56%、9月は約66%でした。10月になり、東京都除外がようやく解除。地域共通クーポンの利用も開始され、稼働率は約70%まで回復しました。

アパホテルの客室稼働率
アパホテルの客室稼働率

 厳しい状況のなかで客室稼働率が回復しているのは、「アパホテル&リゾート・両国駅タワー」(1,111室)や「アパホテル&リゾート・横浜ベイタワー」(2,311室)などの大型店舗で、大浴場を利用できるなどの日帰りプランをつくり、短時間利用により客室を1日2回以上回転させることで、客室稼働率100%を超えるホテルも出ているためです。

 前年度(2018年12月~19年11月)10月末時点の累計客室稼働率は89.5%でした。しかし、今年度(19年12月~20年11月)10月末時点では、62.7%となりました。

 ホテル事業を開始する以前、アパグループの主力事業はマンション開発でした。ホテル事業を始めたのは、マンションの売却時の利益と保有するホテルの償却赤字を損益通算して節税するためでした。ホテルのオペレーターは通常、施設の賃借料やブランド使用料などがコストになりますが、アパホテルは自社物件の比率が高く、オペレーションとブランドマネジメントを自社で行って低コスト化しており、19年11月期のアパグループの売上高は1,371億5,600万円、経常利益は335億4,700万円(利益率:24%)でした。20年11月期の決算は21年1月に発表予定ですが、黒字化のメドが立ち、同経常利益は約30~40億円(利益率:5~7%)と予想しています。

 アパホテルでは、20年5月10日から6月末まで会員向けに2,500円の特別価格の宿泊キャンペーンを行って、急速に稼働率を高めて売上を増強し、経費削減や新規採用を控えるなどの効果が表れました。

アパホテル&リゾート〈両国駅タワー〉
アパホテル&リゾート〈両国駅タワー〉

 ――利用客層に変化はありますか。

 元谷 アパホテルの主な客層は、(1)インバウンド、(2)国内観光客、(3)ビジネス出張客です。アパホテルでも19年は利用客の約25%が外国人観光客でしたが、20年の訪日外国人観光客数は3,000万人だった19年の1%程度の3万人前後と予想されており、我々も大きな影響を受けています。コロナが収束しなければ、インバウンドは回復しません。また、外出自粛などで観光客は減り、企業は不要不急の出張を控えているため、ビジネス出張客も大きく減少しました。

 21年に開催されると言われている東京オリンピックは、来日する選手や関係者だけでなく世界中から訪れる観客のコロナ対策も必要ですが、現状では対応が追い付いていないため、通常通りの開催は難しいのではないでしょうか。

 コロナにより非接触のニーズが高まっており、300室以上の大型ホテルではスケールメリットを生かし、フロント業務をIT化した方が運営コストは下がるため、このタイミングで1店舗当たり500万円前後のIT化の初期投資を行いました。IT化で先行する航空業界の手法を取り入れて、自動チェックイン・チェックアウト機を導入しています。

 ――稼働率や収益に地域ごとの特性はありますか。

 元谷 新型コロナウイルスの感染拡大は当初、都市部から地方へと広がったため、地方に比べて都市部の客室稼働率の落ち込みが顕著でした。7月に「Go To トラベル」が開始されてからも、東京都キャンペーン除外期間は都内ホテルの客室稼働率は厳しい状況でしたが、10月から東京都の除外が解除され、地域共通クーポンの運用も開始されたため、全国的に宿泊予約件数が増加し、地域差は小さくなりました。

 また、19年にインバウンドの多かった東京、大阪、京都、福岡などの大都市ではコロナ禍での稼働率や売上の落ち込みが顕著で、都内では外国人旅行客に人気の上野、浅草が大きく落ち込みました。コロナ再拡大が懸念される札幌でも、予約は鈍化しています。一方、もともとインバウンドが少なく、安定したビジネス利用が中心の地方は大都市と比べて好調な傾向があります。

 アパホテルは、客単価や稼働率が高く、需要が増えると見込まれる東京都心部に集中的に中・大規模ホテルを建設する「ドミナント戦略」を展開してきました。大型化して人件費を下げ、駅前に集中して展開することで、ベテラン社員が近隣エリアの複数店舗を同時に管理し、緊急時に対応できる体制をつくり、多くの見習い社員が安心して業務につけるようにしました。

 東京では都心3~5区の主要鉄道路線の地下鉄駅3分以内の立地に集中し、大阪や福岡などの大都市部に多く出店しています。東京では新築が多く、大阪や福岡などは景気が悪化したときに既存ホテルを買収するケースが多くを占めています。

(つづく)

【石井 ゆかり】


<COMPANY INFORMATION>
アパグループ

代 表 :元谷 外志雄
東京本社:東京都港区赤坂3-2-3
     アパグループ赤坂見附本社ビル
設 立 :1971年4月
売上高 :(19/11連結)1,371億5,600万円
TEL :03-5570-2111
URL :https://www.apa.co.jp

(中)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事