【流水型ダムを考える】蒲島知事も私たちも「無罪」ではない(後)
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前熊本市長 幸山 政史 氏
蒲島郁夫熊本県知事は2020年11月20日、赤羽一嘉国土交通大臣と面会。既存の川辺川ダム計画を廃止し、新たに流水型ダム(穴あきダム)を建設する旨、要望した。12年前のダム白紙撤回から一転、真逆の政策判断を下したことになる。「君子は豹変す」という言葉が示すように、意見をガラリと変えること自体は問題ではない。問題があるとすれば、自ら下した判断にどう向き合うかにある。この点、蒲島知事は、いずれの判断も「民意によるもの」だとして、過ちを改めるどころか、過去の自分を擁護するような姿勢をとり続けているように見える。この蒲島知事の姿勢について「民意をタテにした保身」と批判するのが、過去に2回、熊本県知事選を戦った前熊本市長・幸山政史氏だ。流水型ダム要望にはどのようなウラがあったのか。蒲島知事、熊本県政が抱える問題点などを含め、話を聞いた。
誰かのシナリオに乗ってきただけ
――水害発災直後には、「ダム計画復活はない」ともいっていました。
幸山 たしかに彼は、水害発災直後「ダムはつくらない」と明言しました。ところが一転して、その翌日には「ダムも含めて考える」と発言を変えました。球磨川流域の治水対策は、県政の重要課題の1つであり続けてきたわけですから、まさか気が動転していたものでもないのでしょう。
では、たった1日で民意が変わったのでしょうか。決してそんなことはありません。「ダムはつくらない」といった直後に何かがあった、何らかの示唆か直接的な圧力を受けて発言を翻したと考えるのが自然です。流水型ダムと判断するまでの3カ月ほどは、「民意をはかる」といいながらも、彼は誰かが書いたシナリオに乗っかってきただけのように見えていました。途中「まだ決めていない」とはいっていましたが、それは口先だけのことです。熊本県政の抱える無責任体質という構造的な問題は、むしろ深まったと感じています。
――球磨川流域の治水に関しては、蒲島知事だけでなく、県議会や流域市町村にも責任があるように感じますが…。
幸山 私もそう思います。県政は二元代表制ですから、議会としての責任も当然問われるべきです。また流域市町村のなかには、ダム建設に反対した首長がいた一方、代案としての遊水地の整備などに反対した別の首長もいました。市町村ごとに意見がバラバラで、まったくまとまりませんでした。それもあってか、ダムによらない治水をめぐる議論を振り返ると、途中からはあきらめムードが漂っていました。そういう意味では、まとめきれなかった国や県とともに、流域市町村にも一定の責任があると思っています。
――蒲島知事が責任を問われない限り、その他の誰も責任を問われないのでしょうか。
幸山 そうですね。蒲島知事と県議会、流域市町村とは、「持ちつ持たれつ」の関係にあるといえるかもしれません。私には、お互いの責任の所在については黙ったままにして、誰にも火の粉が飛ばないようにしているように見えます。まさに無責任体質の極みです。
――県議会での知事表明にもかかわらず、議会への言及が一切ないのは奇妙です。
幸山 お話しした通り、地方自治は二元代表制ですから、知事と同じだけの責任が議会にもあるはずです。しかしながら現状は、自民党県議団が圧倒的多数を占め、その県議団に支えられ続けている知事。両者の間には緊張感が失われ、重要課題が先送りされた結果ともいえます。議会から責任問題が浮上しないのは、そんな背景があるからなのでしょう。
12年の空白期間繰り返さないように
――今回の表明によって、潮目が変わると思いますか。
幸山 蒲島知事が流水型ダム建設を要望したからといって、まだ何も決まったわけではありません。将来再び、ダム建設が止まってしまう可能性もゼロではありません。この12年間を振り返ってみれば、蒲島知事が判断しただけでは、球磨川流域の治水をめぐる問題は何も解決しなかった、ということが客観的に明らかになりました。そのことを私たちは教訓としなければなりません。
――流水型ダムは、完成までに早くとも10年以上かかるといわれています。完成までの間に、再び水害に見舞われるリスクが心配ですね。
幸山 今回はダムだけに焦点が当たり、他の治水対策が議論されることはありませんでした。今後の水害リスクを考えた場合、ダムに限らず、もっと短期間でやれる治水対策もあるはずです。
――蒲島知事は「政治家は歴史法廷の被告人だ」といいました。
幸山 それだけの覚悟があるならば、「民意をタテにするような発言はやめなさい」といいたい。政治家としての言葉の重みや責任感がまったく感じられない方の言葉は、どんなに歴史上の人物の発言を持ち出しても、それはただの借りものであり、被災者には虚しく響くだけです。
――歴史的に「無罪」となることを望んでいるというわけですね。
幸山 彼が、望もうが望むまいが、政治家としての責任から逃れることはできません。白紙撤回判断後の12年間は、不作為の責任も問われかねません。一方で、私たちが教訓としなければならないのは、お話ししたように、蒲島郁夫という1人の政治家の判断に委ねただけでは、問題は何も解決しなかったということ。再び空白期間を繰り返さないように、肝に銘じるべきだと思います。その意味で、知事も私たちも「無罪」ということはあり得ないのでしょう。
(了)
【大石 恭正】
<プロフィール>
幸山 政史(こうやま・せいし)
1989年3月、九州大学経済学部卒業。同年4月日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)入社。95年4月熊本県議会議員に当選(2期)。2002年11月熊本市長に当選(3期)。16年3月熊本県知事選に出馬するも、蒲島氏に敗北。20年3月熊本県知事選に挑むも、再び蒲島氏の後塵を拝した。関連記事
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