• このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年01月18日 15:52

「ほどよい距離」と「1人」、そして「あっち側とこっち側」(後)

大さんのシニアリポート第96回

 「ソロキャンプ」というのが流行っている。昨年の「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に入った。ユーチューバーで、ソロキャンパー芸人ヒロシが火付け役だ。チャンネル登録数は80万件を超し、『ヒロシのソロキャンプ』(発行元:学研プラス)の売れ行きも好調である。コロナ禍で、「巣ごもり」「ソーシャルディスタンス」という人との距離を強いられる生活が続き、人と話したい欲求が強いのではと思われるのであるが、意外にもその逆の本音も見え隠れしている。

発達障害

 精神科医の熊代亨は、「いまなら発達障害などと診断されるような人が、昭和の時代にはあちこちで当たり前に暮らしていた、ということです」「一方で、いまの社会はますます清潔で行儀良く、効率的で、コミュニケーション能力が求められる。それについて行けない人に対処する需要が高まったから、発達障害が『病気』として受け入れられたようにも感じます」(朝日新聞2021年1月8日付、耕論「ほどよい距離感って?」)と指摘する。

 確かに一芸に秀でていた人は、羨望の的として尊敬されていた時代があった。それが「発達障がい者」、つまり“病気”として認定されてしまうと、ある種の忌避感を覚えてしまうことを否定しない。最近では、「自分は発達障がい者」とカミングアウトする著名人も増えてきた。

 筆者の知る音楽家は発達障がい者である。子どものころ、ラジオから流れてくるメロディを即座に卓上ピアノで再現し、「この子は天才」と両親を喜ばせたという。後日、発達障害と診断され、両親を落胆させた。でも、生活能力に欠ける部分があっても、すばらしい音楽を聴かせてくれる彼を筆者は尊敬している。

集団での「あっち側とこっち側」

 何ごとに対しても白黒明確にしたがる人がいる。「天才」を「病人」にして溜飲を下げる人がいる。「こっち側の人」を「あっち側」に線引きしたがる人がいる。同じ人間を「あっち側」に差別することで、自分のいる世界を保持したがる人がいる。自分の行動はすべて正しいと思う人がいる。「コロナ警察」は、その典型だろう。

 映画監督で作家の森達也は、「誰かをあっち側と呼ぶとき、人は自分をこっち側、つまり多数派の位置に置きます。自分はあっち側とは違うと信じている」「人間は集団をつくらずには生きていけない存在だし、集団と集団の間に分離が生じてしまうこと自体は避けられない。ただ、ある集団を敵視すれば対立は深刻化します。誰かをモンスター視しないこと。あっち側の人も同じ人間であるとみなす回路を、閉じてしまわないことです」(朝日新聞2021年1月6日付、耕論「『あっち側』という線引き」)と述べている。

 言語学者の田中克彦は、「人間の『分類』はもっとわかりやすい。『あっち』と『こっち』の2つに分け、自分の都合の悪いグループに焼き印を押す」といい、自分が理解できないものには人は寛容だと語る。「ちょっとでも理解できるものに対しては、小さな差異であっても徹底的に見逃しません。自分たちを正当な『こっち側』に、相手を劣った『あっち側』に位置づけているのは、同じ序列のなかにある『敵』に優劣を付けるためだと考えられます」(同)と結論づける。

 何度か紹介したが、かつて筆者が市議会選挙に立候補したとき、応援を頼んだ隣町(こっち側)の人から、「大山さんは県営住宅(あっち側)の住人であることを忘れないように」といわれ、驚愕したことがある。その(残念ながら落選)後、筆者が作家でクラシックの音楽評論家であると知った彼は、なぜか筆者を見かけると視線をそらし、こそこそ逃げ隠れるようになった。

 隣町の住人の多くは、有名企業の元重役や医者、大学教授などが多い。「身分の高い優秀な住民が、県営住宅に住むような賎(しず)なる人を応援する」という意識があったのだろう。筆者が驚いたのは、「今どき?」と感じたためだ。「肩書きは現役時代の“勲章”、職を辞したらみんな同じ人間」という発想を捨てきれない人が意外に多い。隣町のそうした人々は群れをなして行動する。その集団を筆者は「見えないシェルター」と呼んでいる。寓話『裸の王様』のように、本当は“ない”のに、“ある”つもりでシェルターに身を寄せ合う気の毒な人々。

 「ソロキャンプ」から、集団での「あっち側とこっち側」「ほどよい距離感」を保つのは、なかなか難しいものである。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2021年03月09日 14:12

アフターコロナの市民の心を癒す「パブリックアート」の大きな役割!(2)NEW!

 『ニューヨークでは、新型コロナが当初、中国からのウイルスと言われていたため、アジア人への偏見による被害も増え、自分が同じアジア人であるということを意識せざるを得ず、...

2021年03月09日 13:47

ホテルアセント福岡が3月末で閉館、感謝セールを実施中NEW!

 ホテル経営を行う(株)アセントは8日、ホテルアセント福岡(福岡市中央区)を今月31日に閉館すると発表した...

2021年03月09日 13:11

【読者ご意見】東京五輪とコロナNEW!

 NetIB-Newsでは、読者のご意見を積極的に紹介し、議論の場を提供していきたい。今回は植草一秀氏のブログ記事「2021東京変異株博覧会の開催」についてのご意見を...

2021年03月09日 13:11

【読者ご意見】企業批判をめぐる報道NEW!

  NetIB-Newsでは、読者のご意見を積極的に紹介し、議論の場を提供していきたい。今回は【新・「電通公害」論】についてのご意見を紹介する...

2021年03月09日 13:00

【東日本大震災から10年(2)】福島第一原発事故から10年、放射性物質汚染の現状 公的除染終了後の問題(中)NEW!

 公的除染の問題点を考えてみよう。福島県のHPによると、除染の目標値は0.23μSv/hとなっている。これは、民間人の被曝限度量が年間1μSvで、時間あたりに直すと0...

2021年03月09日 11:31

飯塚市の「まち・ひと・しごと創生事業」に寄付~グッデイNEW!

 (株)グッデイ(福岡市博多区、柳瀬隆志社長)による福岡県飯塚市の「まち・ひと・しごと創生事業」に対する寄付金の贈呈式が8日、飯塚市役所で行われた...

2021年03月09日 10:19

【東日本大震災から10年(2)】福島第一原発事故から10年、放射性物質汚染の現状 公的除染終了後の問題(前)NEW!

 もうすぐ、3・11震災・原発事故から10年を迎える。この原稿では、東京電力福島第一原子力発電所事故による放射性物質の汚染がいまだに続く福島県中通りの現状を、私の徒歩...

2021年03月09日 10:19

【東日本大震災から10年(1)】宮城県で津波を経験、九死に一生を得るNEW!

 ゼオライト(株)の常務取締役・松井真二氏は2011年3月9日、フジパン仙台工場の水処理プラントの設置を行うため、河村恭輔名誉会長(当時・会長)と河村勝美会長(当時・...

2021年03月09日 10:00

ポスト・コロナ時代をどう生きるか?変化する国家・地域・企業・個人、そして技術の役割(6)NEW!

 『コロナは世界のパワーバランスが変わる引き金になり、米国、中国、ロシア、ベトナム、ミャンマーは混乱のなかで新しい権力構造を生みつつあります。個人の持つ感性やコミュニ...

2021年03月09日 09:15

【新・「電通公害」論】崩れ落ちる電通グループ~利権と縁故にまみれた「帝王」の凋落(4)NEW!

 クライアントに詐欺を働き、社の繁栄に貢献すべき若い有能な人材をも潰すような企業に未来はない。電通は大型スポーツイベントを次々と独占受注し、人々のマスコミ離れを食い止...

pagetop