2024年05月02日( 木 )

コロナ禍で進む企業の選別 顧客とより多く話し、関係を強固に(中)

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税理士法人アップパートナーズ
代表社員税理士 菅 拓摩 氏

 九州最大規模の税理士事務所である税理士法人アップパートナーズ。新型コロナウイルス感染拡大のなかでも顧客の倒産を出さず、経営状態を守るとともに、新規顧問先を増やしている。これらを実現している背景には、同社が昨年の早い時期から顧客に融資を受けるように勧めてきたこと、税務にとどまらず、経営コンサルティングなどのサービスもワンストップで提供してきたことがある。

(聞き手:(株)データ・マックス 取締役 緒方 克美)

 ――IT周辺のデジタル関連の依頼は増えていますか。

 菅 日本の企業、とくに中小企業は、売上はデータベースで管理していますが、仕入れのシステムが別であるなど、会計のシステムが分断された状態です。このように相互に連携してないケースが大半です。そこで、これらを統合するようなシステムを入れると、ほとんど自動で仕訳し、さらに詳しい分析まで行えるようになります。

 先日、ある医療機関の顧客に新サービスを提供したところです。この病院では従来、数十の部門の損益計算を手計算で行っていましたが、データが自動的にシステムに流れてくるように組み替えたシステムを新たに提供しました。その結果、従来は入力・計算に約1カ月半かかっていたものが、現在は約3日で完了するようになっています。売上についても部門別、医師別の収益が自動的に全部わかります。経営者としては、前月の部門別の損益データがタイムリーに把握できるようになれば大いに助かるでしょう。

福岡オフィス エントランス

 当社は自社でほぼ同様のシステムをつくっていて、顧客に対してサービスを提供できる基礎があることに気づき、導入を提案しました。ちなみに大手に見積もりを出したところ、当社の約6倍の費用だったそうです。現在、同様のプラットフォームに基づくサービスをほかの顧客に導入しようとしていますが、ここは店舗数が多いため、相当大きな取引になると思います。

 システム化により、従来手間が非常にかかっていた作業が、まるで魔法をかけられたように簡単になります。さらに、一度出来上がったものは応用が利きます。私はプログラミングができるわけではないのですが、話を聞けば実現可能かどうかという想像だけはつきます。中小企業の経営者が「こうなればよい」という想いをもち、想像を働かせていけば、デジタル化は必然的に進んでいくのではないでしょうか。

繰り返し訪問し顧客の信頼を得る

 ――顧客サービスでもっとも注意していることはなんでしょうか。

 菅 訪問数に強いこだわりをもっています。税理士業界における昨今の流行は接触回数を極力減らし、事務効率を上げるというものになっていますが、私はむしろ逆です。作業を減らし、コストを減らすことの目的は、顧客に会うためのコストを捻出するためだと考えています。たとえば、年間顧問料を同様に60万円支払っていただくのであれば、顧客に3回しか会いに行かない事務所よりも、12回会いに行く事務所のほうが顧客にとって魅力的だと思います。

 ――実際に対面で会うことにより、顧客との関係性、親密度は当然変わりますね。

 菅 顧客のところには、会計帳簿をすでに仕上げ、社長と話すために訪問しています。訪問時に帳簿作成の作業がないため、社長と1~2時間話す事項を準備していく必要があります。社長からは経営上の相談なども受けます。このような逃げられない緊張感のなかで仕事をしています。それを毎年全顧客に繰り返し行って、レベルを底上げしています。

 ――情報の伝達は、言葉以外のノン・バーバルな要素が8割を占めるとされています。今の時代に合わせるにしても、大事な点が欠落してはいけないと思います。社員にその点を理解させるためにどうしていますか。

 菅 もし一定期間顧客を訪問していないとペナルティーを科すようにしています。とくに最近は、ITによって「ここは行ってないのではないか」と疑いのあるところをリストで上げるようにしています。実際にはないのですが、不訪問には相当な厳罰で臨みます。訪問の有無は日報にシステムを組んで管理し、以前は手作業でしたが、昨年から全部システム上で利用できるようにしました。管理しているのは上長です。

 これは実は、歯科の経営からヒントを得ています。インプラントなど100万円かかるような治療を受ける患者はリピーターだそうです。歯科医に対する信頼があってこそ、患者は何回も治療にきて、高額な治療を依頼するわけです。高額な商品、大きな仕事というのは、こまめに仕事を受けていないと依頼してくれるわけがありません。

(つづく)

【文・構成:茅野 雅弘】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:菅 拓摩
所在地:福岡市博多区博多駅東2-6-1
設 立:2008年9月
グループ資本金:1億5,600万円
売上高:(20/12)約25億円


<プロフィール>
菅 拓摩
(すが・たくま)
1973年4月生まれ、福岡県出身。立命館大学大学院経営学研究科修了。父の事務所を継承した後、2008年に内田延佳税理士事務所と経営統合し、税理士法人アップパートナーズを設立。同事務所代表社員税理士に就任。

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