2024年04月26日( 金 )

足立区江北地区の都有地を活用、木密地域を移転し共同住宅を整備(後)

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4つの事業コンセプト

 1つ目の事業コンセプトは、「温かみがありシンボリックな木造建築と開放的な空間の創出」であり、建物の外壁には、木の温もりを感じる外観をつくるとともに、東京都・多摩地域で生産された多摩産材を利用して、地元資材の普及にも努める。構造材としては、集成材の厚板パネルも用いる。また、事業用地が江北平成公園に近接していることを生かして、建物の外周部に緑を植え、自然のある公園と連続した緑あふれる開放的な空間をつくり出す計画だ。

 2つ目は、「コミュニティや多世代交流を育む空間の提供」。地域の活性化には多様な家族構成が必要であるため、単身者や2人世帯、ファミリー入居などのライフステージに応じた多様なニーズを想定して、住宅が建てられる予定だ。部屋数は、対象地域のニーズを基に、ワンルームの単身用の住戸が多い構成となっている。「多世代の出会いや交わりを生み出すことが期待されている」(東京都都市づくり公社)。移転前の地域での近所付き合いなど、既存のコミュニティの維持や移転先での新たなコミュニティが生まれることを目指す。

 移転を促す仕掛けとして、コミュニティや多世代の交流を育む空間がある。たとえば、木密地域では、路地裏的な空間によって地域のコミュニティが生まれているが、本事業でも2棟建ての共同住宅の間の中庭にセミパブリックな空間として、路地風の「みんなの小路」をつくることで、路地裏的な空間を継承する。外周部、共用部も一体となった「路地風」の空間として整備し、コミュニティを育む場を提供するとしている。

 建物の外周部には、花や植物を育てる「みんなの花壇」をつくり、建物の軒下スペースにベンチを配置して地域の住民などにも空間を開放していくことで、地域の活動拠点となることを目指す。加えて、入居者や近隣住民のための交流スペースを室内に設け、住民同士の対話拠点となることを計画している。審査の際には、それらの場所で人が出会って話したり、気にかけ合う関係や人と人のつながりが生まれる可能性が感じられた点が評価(東京都都市整備局事業予定者選定結果より)されている。

 3つ目の「賑わいを創出するテナントの誘致」として、建物の1階には地域住民の交流ができるテナントが入居する予定だ。また4つ目の「コミュニティを紡ぐ仕掛けの提案」として、「江戸園芸ツツジの苗木配布」などのイベントを東京都都市づくり公社が実施し、事業用住宅の周辺地域に住む人々との交流をサポートする。

移転先整備事業の事業用地の位置図-(出典:東京都都市整備局-本事業実施方針)
移転先整備事業の事業用地の位置図(出典:東京都都市整備局-本事業実施方針)

 事業コンセプト 

 ・温かみがありシンボリックな木造建築と開放的な空間の創出
 ・コミュニティや多世代交流を育む空間の提供
 ・賑わいを創出するテナントの誘致
 ・コミュニティを紡ぐ仕掛けの提案

防災とコミュニティの両立

 本事業の移転先住宅では、防火、延焼防止など火災時の対策として、新築準耐火木造により建物の耐火性能を確保する。さらに、2・3階に配置されたデッキにより、階を移動しなくても隣の棟への移動ができるなど、避難経路を複数設けることで火災による被害を軽減し、緊急避難を行いやすくしている。

 東京都都市づくり公社は、「都営住宅や公園、病院など隣接する地域資源ともつながり、地域に開かれた拠点となることを目指している。子どもからお年寄りまで多世代における交流が可能なテナントを誘致して、ツツジの苗木配布などのイベントを通じて賑わいをつくり出し、コミュニティを紡ぐ仕掛けの提案をすることで、事業用地を“真に魅力的な移転先”としていきたい」としている。

 木密地域は、民家と民家の間に幅の狭い路地が多く、この路地裏的な空間が近隣の住民の距離を縮めて近所付き合いを生み出してきた。一般的に集合住宅の多い首都圏の都心部では、下町を除いて「地域のコミュニティ」が希薄になりがちであり、地域の交流があることは貴重だ。東京都の防災都市づくり推進計画で木密地域を整備するにあたって、「いかに地域のコミュニティを維持できるか」という課題への取り組みとして期待されている。

東京都の木密地域(左:中野区大和町、右:渋谷区本町) (出典:国交省「地震対策の現状と課題について」)
東京都の木密地域(左:中野区大和町、右:渋谷区本町) (出典:国交省「地震対策の現状と課題について」)

(了)

【石井 ゆかり】

(中)

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