2024年04月29日( 月 )

放射線被曝がん死容認はジェノサイド

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「原発事故被害者に対する適正な措置を取らずに、利権まみれの五輪に突き進むのが日本の政治の現実だ」を訴えた3月6日付の記事を紹介する。

NHKニュースウォッチ9がフクシマを取り上げたが偏向が著しい。

放射線被ばくの影響については専門家の間でも見解が割れている。
ICRP(国際放射線防護委員会)は低線量の被曝でも有害な影響があるとするLNT(Linear Non-Threshold)仮説を採用し、低線量被ばくへも警戒を呼び掛けている。

ICRPの勧告に基づいて日本では一般公衆の被曝上限を、原子炉など規制法および放射線障害防止法によって年間線量1ミリシーベルトと定めている。

ただし、累積線量100ミリシーベルト以下の被曝においては、発がんリスクの有意な上昇は認められていない。
逆にいえば、累積線量100ミリシーベルト以上の被曝については、発がんリスクが確率的に上昇するとされて認定されている。
これは被曝の確率的影響と表現される。

ICRPは
「自然被ばく以外での累積線量100ミリシーベルトの被曝でがん死亡リスクが確率として0.5%上昇する」
としている。

NHKニュースが取り上げた専門家は、この影響を「たいしたことがない」との主旨で発言したが、極めて不適切な評価だ。
人口100万人で考えれば、累積線量100ミリシーベルトで5,000人の人ががん死に追い込まれるという計算になる。
被曝がなければ死なずに済む人が被曝によって死亡する。

確率的に有意な差が認められるようになる水準が累積線量100ミリシーベルトの放射線被曝だ。
放射線被ばくによってがん死亡リスクが確率的に0.5%も上昇することは重大だ。

政府の最大責務は国民の命と暮らしを守ること。
この視点の上に法律が制定されている。

現在、菅内閣は年間線量20ミリシーベルトの地域に住民の居住を強制している。
20ミリシーシーベルトの被曝は5年で100ミリシーベルトの被曝をもたらす。
そのことによって人口100万人あたり5,000人ががん死に追いやられることになる。
政府による放射線殺人だ。

従って、原子力を研究する研究者のなかに、一般公衆の被曝を回避させるべきだと主張する良識派の学者が多数存在する。
しかし、原子力研究の学者は原発推進の立場を取ると研究費が提供される構図のなかに置かれる。

そのために、多くの専門家が原発推進のための意見提示を行っている。
金の力になびくのが多数の学者の実態だ。
逆に放射線の危険性を適正に摘示し、原発反対の主張を示す学者は冷遇される。
そのような弾圧を受けてもなお、良心に従い、学者として適正な見解を示し続ける学者も存在する。

どちらの学者が人間として適正であるかは明白だ。
金になびいて良心を捨て、政府や業界の手先となって行動する学者が多数派を占める。

放射線被ばくによる「確率的影響」は放射線被ばくによるがん死リスクが「有意」に上昇することが認められるという「科学的知見」である。
それを、0.5%の上昇だから「たいしたことはない」と住民に説明する姿勢は人間としての良心、良識を疑わせるものだ。

「0.5%しか」ではなく「0.5%も」上昇する。
人口100万人あたり5,000人もの死者を生み出すことを肯定して良いわけがない。

NHK番組では出演した学者が、説明を続けると住民の対応に変化が表れたとコメントしたが裏付けなど存在しない非科学的な思い込みでしかない。
正しい知識を持つ者は0.5%のがん死リスク上昇を軽視しない。
十分な知識をもたない者は「たいしたことはない」「心配することはない」との言葉に左右されることもあるだろう。

重要なことは、
「人口100万人であれば、そのなかの5,000人ががんで殺されることになる」
との「科学的知見」を正確に伝えること。
それをどのように評価するかは主権者である国民に委ねられる。

「たいしたことはない」や「心配するな」などの主観的感想を除いて「科学的知見」を人々に伝えるのが科学者として正しい姿勢だ。

NHKは放送事業者として
「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにする」
責任があるが、これをまったくはたしていない。

放送法第4条に以下の規定がある。

第四条 放送事業者は、国内放送および内外放送(以下「国内放送など」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。

一 公安および善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

原発について推進派と反対派に意見が割れている。
意見が対立している問題については、多くの角度から論点を明らかにしなければならない。

原発周辺の住民は年間20ミリシーベルトの被曝を強要されている。
この被ばく線量は5年で累積線量100ミリシーベルトに達するもの。
この累積被曝線量でがん死リスクが0.5%上昇する。
原発周辺の住民にこのリスクを負わせる根拠が存在しない。

日本の法律は一般公衆の被曝上限を年間線量1ミリシーベルトとしている。
原発周辺の住民もこの法律の適用を受ける。
住民は年間線量1ミリシーベルト以下の地域に避難する権利を有している。
従って、自主避難している住民の避難費用を国が補償する必要がある。
ところが、安倍内閣、菅内閣がこの補償を切った。

一部の住民に年間線量100ミリシーベルトの被曝を強要している。
このことによって、人口100万人あたり5,000人ががん死の犠牲者にされる。

「日本版ジェノサイド」
と呼ぶべきものだ。

この状態を放置して「復興五輪」と称するのは国家的詐欺行為ではないか。

日本はいまなお「原子力緊急事態宣言」発令下に置かれている。

原子炉など規制法および放射線障害防止法によって、一般公衆の被ばく線量上限は年間1ミリシーベルトに定められているが、「原子力緊急事態宣言」が発出されていることを受けて、年間線量20ミリシーベルトの被曝が国民に強要されている。
この状態を放置したまま「復興五輪」の名を冠して五輪推進に突き進むことを私たちは許すべきでない。
すべての住民を年間線量1ミリシーベルト以下の地域に避難させるべきだ。

フクシマ原発はいまも放置されたまま。
第一原発の1号機、2号機、3号機で炉心が溶融=メルトダウンした。
1号機では圧力容器下部に溶け落ちた核燃料が格納容器をも溶かして地下に燃料が潜り込んだ疑いが強い。
メルトダウンを超えてメルトスルーが生じたのだ。
溶け落ちた燃料デブリが地下水と接触すれば極めて高濃度の放射線汚染水が発生する。

燃料デブリの放射線量が高すぎて電子制御のロボットが操作不能に陥っている。
燃料デブリを取り出す見通しすら立っていない。

原発敷地内に貯蔵された汚染水がまもなく満杯になる。
菅内閣は一定の処理を行った放射能汚染水を海洋放出しようとしているが、漁業関係者が猛烈に反対している。
一定の処理を行ってもトリチウムを取り除くことはできない。

とても五輪で騒いでいる状況ではない。
五輪を延期するだけで3,000億円もの追加費用が発生している。
そのお金があれば、放射能汚染地域から避難する住民に避難費用を提供することができるだろう。

原発事故被害者に対する適正な措置を取らずに、利権まみれの五輪に突き進むのが日本の政治の現実だ。
このような政治を排除して、国民の幸福のために行動する新しい政府を樹立しなければならない。


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植草一秀の『知られざる真実』

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