2024年04月19日( 金 )

日本でも無視できなくなったESG投資、環境性能が不動産市場に与える影響(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
レンドリース・ジャパン(株)
建設部プロジェクト
マネジャー 宮本 順子 氏

 米国で誕生したグリーンビルディング認証制度「LEED」は、建築や都市の環境性能を評価するシステム。2020年時点のLEED認証件数は、世界で累計8万6,000件以上に拡大しており、LEED認証取得ビルは、外資系企業にとってベンチマークとなっている。コンサルタントやプロジェクト・マネジャーとして、建築設計と近隣開発のプロジェクトに携わり、LEEDやオフィスのウェルビーイング認証・WELL認定の評価員を務める、レンドリース・ジャパン(株)の建設部プロジェクト・マネジャー・宮本順子氏に聞いた。

日本でも高まり見せるグリーンビルディング認証

建設部プロジェクト・マネジャー 
宮本 順子 氏

 「大手外資系企業が入居するビルを選ぶ際、『環境性能の高いグリーンビルディング認証を受けているか』が大きな判断材料となる。ビルオーナーがグリーンビルディングを建設する主な狙いはそこだ。東京をはじめとした大都市でグリーンビルディングは増加している。また、ESGやSDGsに配慮した日本企業でも関心が高まっている」と宮本氏は話す。

 グリーンビルディング認証とは、用地取得から建設、運用、改修、解体といったビルのライフサイクル全体を通じて、環境に負担を与えにくい資源効率の高いビルを認証する制度。ビル建設時に運用時の電気料金を下げる仕様にして、ビル内で心地良く健康に働くことができるように空調設備を調整するほか、ビル利用者がレクリエーションに利用できる十分な緑地などを設置し、さらに眺望や立地に至るまで事前に計画するなどのさまざまな工夫を盛り込むことで、認証を受けることができるというもの。

 日本では、一定規模以上のビルを新築・増改築する際の一次エネルギーの消費量や外皮(断熱性能)の基準を定めた「建築物省エネ法」への適合が義務化されて以来、省エネ性能が向上したビルが格段に増えた。「義務として省エネのビルを建てることから、サステナブルで健康的なグリーンビルディングを建てることに動機が変化しつつある」(宮本氏)という。

 さらに宮本氏は、「日本企業の環境に対する意識も高まっており、LEED認証の取得は重要なアピールポイントとなる。環境認証されたビルは、その認証過程において、環境への負荷軽減策や、十分な天井高や共用部の充実などのウェルフェア(福利厚生)面も審査される。認証により、不動産価値の向上が見込め、賃料の増加も期待できる」と強調する。

オーストラリア環境認証・Green Starを取得したレンドリースの高層オフィスビル3棟

欧米のグリーンビルの現状、米国の事例

 環境性能で先行する米国において、グリーンビルディング認証を受けたビルはそうでないビルに比べて、資産価値が10%も高いといわれている。ロサンゼルスのテナント向けのアンケートでは、従来のビルの賃料1平方フィートあたり2.16ドル(1m2あたり約2,487円(※1))に対して、LEED認証を受けたビルの賃料の相場は同2.91ドル(同約3,350円)が妥当という結果だった。

 賃料が35%高くても、グリーンビルディングを選ぶという回答からも、その価値の高まり具合がわかる。また住宅市場では、テキサス州の州都オースティンにおける調査では、LEED認証を受けた住宅の価値は8年間で6%から8%上昇していることがわかった。宮本氏は、「グリーンビルディングでは入居率が上昇している調査結果もある」とコメントした。

(参考)LEED-CI認証を取得した
日本郵政グループ本社が入居する
大手町プレイスウエストタワー

 また、グリーンビルディングは、ビルの運用コストが下がるという調査結果も出ている。米国では、LEED認証を取得したビルは、エネルギー使用量が少ない、節水であるなどの理由から、維持管理コストが一般的な商業ビルより20%ほど低いという報告がある。さらに、既存のビルをグリーンビルディングに改修した場合でも、わずか1年で運用コストを10%近く削減することができるという。エネルギーと水利用の効率化により、光熱費の削減につながった事例もある。

 また、洪水や台風、豪雨、竜巻、山火事など自然災害による影響を軽減する機能を取り入れたグリーンビルディングは、災害対応と復旧にかかるコストを大幅に削減しているという。さらに、室内の空気の質を改善することで、テナントの従業員の欠勤を減らし、生産性を向上するウェルビーイングへの貢献も期待される。日本で広く普及するにはまだ少し時間がかかりそうだが、今後ますます重要になると見込まれるため、注目すべき点だ。

※1:1ドル=107円換算。 ^

(つづく)

【石井 ゆかり】

(中)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事