2022年05月19日( 木 )
by データ・マックス

日本でも無視できなくなったESG投資、環境性能が不動産市場に与える影響(中)

レンドリース・ジャパン(株)
建設部プロジェクト
マネジャー 宮本 順子 氏

 米国で誕生したグリーンビルディング認証制度「LEED」は、建築や都市の環境性能を評価するシステム。2020年時点のLEED認証件数は、世界で累計8万6,000件以上に拡大しており、LEED認証取得ビルは、外資系企業にとってベンチマークとなっている。コンサルタントやプロジェクト・マネジャーとして、建築設計と近隣開発のプロジェクトに携わり、LEEDやオフィスのウェルビーイング認証・WELL認定の評価員を務める、レンドリース・ジャパン(株)の建設部プロジェクト・マネジャー・宮本順子氏に聞いた。

欧米のグリーンビルの現状、欧州の事例

 欧州全域では、グリーンビルディングの不動産価値が1%から10%上昇したことが報告されている。たとえばドイツでは、グリーンビルディングの10年間の維持管理コストは従来のビルより低減され、賃料が上昇したとの報告がある。イギリスでは、高エネルギー効率の住宅は平均14%の付加価値がつき、オフィスビルでは、水、エネルギー、廃棄物費用の削減に加えて、従業員の定着率や生産性が向上したとの政府の報告がある。オランダのオフィスビルでは、エネルギー効率の良さも、賃料増加の1つの要因になるといわれている。宮本氏は、「レンドリースのオーストラリア・シドニーの大規模再開発では、高層オフィスビル3棟が、オーストラリア環境認証・Green Starの最高ランクである6 Starを取得している。他のオフィスビルより賃料は高いが、入居率は安定している」という。

 加えて、エネルギー性能の開示が義務化されることで、グリーンビルディングの価値が高まりやすいことも加えておく。米国は複数の都市で中古住宅販売時や、商業ビルの所有者に対して、開示を義務化。これにより、ビルのエネルギー効率化を助ける製品などの市場収益は11年から18年の間に2倍以上に成長した。EUでも、ビルの売買や賃貸時にエネルギー効率証明書の発行が義務化されている。

 エネルギー関連規制の影響も大きい。EUでは、20年末までにすべての新築建築物をゼロエネルギーに近づけること(nZEB)を目標にしてきた。米国の州レベルの再生可能ポートフォリオ基準(RPS)では、エネルギー生産のうち一定の割合を再生可能なものにすることを電気事業者に義務付けた結果、再エネ生産量とその業界への投資額は激増した。日本でも環境対応の義務化が進むと、関連市場が影響を受ける可能性もあるため、政策動向を注視しておく必要があるだろう。

レンドリースオフィスビルのフロア
レンドリースオフィスビルのフロア

環境配慮が高評価にESGや金融の動向

 ESG不動産評価・GRESB(※2)でファンドが高評価を得ると、環境、社会、ガバナンスに配慮していることが明確であるため投資家からの資金調達に大いに役立つが、LEEDなどのグリーンビルディング認証を目指していることも、GRESBで大きく評価される要因となりやすい。欧州グリーンディールにより、欧州では持続可能なものへの投資が不動産分野で確立されてきたため、宮本氏は「化石燃料を大量に使う、ゴミの排出量が多いなど、環境に負荷をかける企業や資産への投資を中止する動きがESG投資を加速させた」という。

(参考)LEED-CS認証を取得している東京虎ノ門グローバルスクエア
(参考)LEED-CS認証を取得している
東京虎ノ門グローバルスクエア

 EUはESGの透明性を高めるため、持続可能な不動産投資を格付けするシステムを開発中であり、これが実現するとESG投資がさらに加速すると見られている。日本企業もESG投資やSDGsに対する意識が高まっているが、欧米では気候変動の影響で関連規制が厳しくなるにつれ、ESGはさらに無視できない存在になっている。

 レンドリースは25年までに、事業活動に関係するあらゆる温室効果ガス排出を合計するサプライチェーン排出量において、自社での燃料の燃焼などによる直接排出のScope 1と 自社での電気などの使用にともなう間接排出のScope 2でCO₂排出正味ゼロ(カーボンニュートラル)、40年までに事業活動に関係するあらゆる排出を含むScope全体でCO₂排出完全ゼロにするという2つのサステナビリティ目標を定めている(※3)。主に海外の不動産ファンドへ投資・運用をしているが、投資を判断する際に、収支や安全面だけでなく、サステナビリティ(持続可能性)の調査を必須としている。立地、土地の健康、自然やビルを使う人間に悪影響がないこと、エネルギー削減、ビル解体時のゴミ削減などの条件を満たしていなければ投資しないことから、GRESBはレンドリースが運営している複数のファンドに対して、2020年アジア・リテール部門サステナビリティランキングで1位に評価している。

※2
不動産セクターの会社・ファンド単位での環境・社会・ガバナンス(ESG)配慮を測り、投資先の選定や投資先との対話に用いるためのツールとして、APGやPGGMなどの欧州の年金基金を中心に2009年に創設された。日本を含む世界各国の機関投資家が参画している。 ^

※3 (資料:環境省)
Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用にともなう間接排出
Scope3 : Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量 ^

(つづく)

【石井 ゆかり】

(前)
(後)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。

現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募はこちら(nagaue@data-max.co.jp)まで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事