2022年01月27日( 木 )
by データ・マックス

所有のコスト背負わず所有する無敵の「方程式」~星野リゾート(1)

ライター 黒川 晶

グランドハイアット福岡 去る3月18日、星野リゾートグループが「キャナルシティ博多」併設のラグジュアリーホテル「グランドハイアット福岡」を福岡地所から77億円で取得、キャナルシティ運営にも参入するとの報が突如もたらされた。福岡地所はその代わり、星野リゾート保有の「ANAクラウンプラザホテル福岡」を同額の77億円で取得する。

 つまり、両者が互いに所有する不動産を等価交換するというわけだが、両物件のブランド力や立地からして星野リゾートが有利に見える。プレスリリースの補足説明資料によれば、鑑定評価額は5億1,000万円もの差がある。

 星野リゾートといえば、「星のや」「リゾナーレ」「界」「OMO」「BEB」の5つのブランドを展開し、国内外で50に上る宿泊施設を運営する国内最大手のリゾートホテル事業企業グループ。曽祖父の代から受け継いできた長野県軽井沢の一旅館を、20年足らずで大企業に成長させた星野佳路代表の経営手腕は、各方面で注目を浴び、メディアでも盛んに取り上げられてきた。

 コロナ禍にあっても、「ワーケーション」「マイクロツーリズム」といった「ニューノーマル」の旅の在り方を提唱しつつ、新たな需要を掘り起こすしたたかさ。そのうえ、「BEB5土浦」(2020年10月22日)、「界 霧島」(21年1月29日)、「OMO3京都東寺」「OMO5京都三条」(ともに21年4月15日)の4施設を開業し、22年までにさらに4施設を開業予定(「OMO5沖縄那覇」(21年5月13日)、「界 別府」(同6月4日)、「OMO5 京都祇園」(今秋)、「界 ポロト」(22年1月))など、その貪欲なまでの成長志向には驚くほかない。

 福岡地所としては、こうした星野リゾートの経営ノウハウを取り入れることで、コロナ禍で打撃を受けた「キャナルシティ博多」の再活性化を図ろうというわけであるが、これが地元福岡にとって吉と出るか凶と出るか。同社は極めて複雑なビジネススキームで知られるが、本稿では改めてその構造を分析しつつ、星野リゾートという企業の本質を読者の皆様とともに考えてみたい。

運営特化の方針

 星野リゾートはリゾート産業に関わるさまざまな事業を手がけるが、その本業は、グループ内の「(株)星野リゾート」が担う宿泊施設の「運営受託」である。

 ホテル・旅館業は、「土地・建物を取り扱う巨大装置産業であり不動産業であると同時に、お客さまへのホスピタリティーを提供するサービス業との異種のビジネスの複合体」(西部文理大学・馬場哲也氏)である。そして、日本では従来、オーナーが施設の開発・所有、不動産業も運営、サービス業も行い、事業に関わるすべてのリターンもリスクもオーナーに帰属するという事業形態、つまり「所有直営」が主流であった。

 星野リゾートの前身「(株)星野温泉」も、長年そうした「所有直営」で事業を営む温泉旅館だったが、1991年に同社代表に就任した星野佳路氏は、87年施行の総合保養地域整備法(リゾート法)によるリゾート施設の供給過多の時代にあって、家業のビジネスモデルをいち早く転換させたことで知られる。米国ではすでに一般的となっていた所有と運営の分離(マネジメント・コントラクト)方式の「運営」に特化した会社(オペレーター)として、成長を目指したのである。

 この方式においてオペレーターは、オーナーから付与された代理権に基づき、オーナーの経費で施設の運営に当たる。具体的には、自社ブランドの付与、営業予約システムの供与、営業ノウハウ提供、総支配人および各部門幹部としての社員派遣などを行い、運営委託料を収受するのである。

 施設から上がる収益はオーナーに帰属するが、「開設に絡む土地買収や莫大な建設コストを負担することなく、いわば自前のホテルのように運営でき、直営ホテルと同程度のガバナンスを発揮できる」(馬場氏)点でメリットは大きい。星野氏もまさにそうした「運営の達人」を目指していると、一貫してアピールしてきた。

 たしかに、星野リゾートの「運営」手腕には目を見張るものがある。「地域の風土や文化をお客さまに体験させる」をコンセプトに、意匠を凝らして演出された内装や料理、アクティビティメニューの数々。小じゃれた写真と文による積極的なPR活動。加えて、宿泊料金を高く設定することで「憧れの星野リゾート」のイメージを醸成し、稼働率と客単価を上げると同時に、運営面での効率化を徹底して、大きな収益を上げることに成功している。

 しかし、同社の歩みを振り返るに、そこに通底するテーマは、星野氏が強調するような「『所有』のコスト・リスクを負わないための『運営』特化」ではなく、「『所有』のコスト・リスクをかけない『所有』」ともいうべきものであったように思える。

(つづく)

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