2022年01月27日( 木 )
by データ・マックス

福島原発事故、アルプス処理水を海洋放出して良いのか~報道では語られない諸問題と私の提案(1)

福島自然環境研究室 千葉 茂樹

はじめに

 ほかの「報道で語られない切り口」で問題提起を行いたい。

 政府は4月13日、東京電⼒福島第1原発(福島県⼤熊町、双葉町)で溜まり続けている「処理水」を、福島沖の太平洋へ放出処分すると発表した。原発事故の生々しい現実は、東京新聞記者片山夏子氏の著書『ふくしま原発作業員日誌』に詳しく描かれている。一読をお勧めする。

復興庁のトリチウム動画問題

 4月13日に公表され、同14日に削除された復興庁のトリチウム動画(YouTube)を参照してほしい。

 全体的に、都合の良いことばかり話されており、不都合なことはまったく話されていない。「ゆるキャラ」を使い、真実を隠そうとしたのだろうか。

福島自然環境研究室 千葉 茂樹 氏
福島自然環境研究室 千葉 茂樹 氏

 動画の冒頭で「ALPS処理水について知ってほしい3つのこと」と表示される。次に出てくるのは、「誤った情報に惑わされないために」「誤った情報を広めて苦しむ人を出さないために」だ。政府にとって都合の良い情報だけを発信しているのに、この表示はどういう意味をもつのだろうか。「誤った情報に惑わされないために」「誤った情報を広めて苦しむ人を出さないために」ならば、トリチウムに関する正確な情報を出すべきだ。政府にとって不都合な事実も出さなければ、「誤った情報に惑わされないために」という言葉に見合った動画にはならない。むしろ、惑わせているのは、「政府・東電・復興庁」だ。

 次に、「3つのこと」が順に登場する。

 1つ目は、「トリチウムは身の回りにたくさんあります」。トリチウムは地球環境中にたしかにある。以前は、宇宙からやってくる宇宙放射線により、大半が大気上層部でつくられていた。ところが、第2次世界大戦以降、とくに1950年代の米国とソ連の軍備拡張競争による核実験や原子力発電所の増設で、大気中のトリチウムの濃度が急上昇した。加えて、大気や海洋では他の放射性物質も急激に増加した。この内容は、後述する「トリチウム」「放射性炭素14Cの生体内での挙動」の項目を参照してほしい。

 2つ目は、「トリチウムの健康への影響は心配ありません」。「トリチウムが出すベータ線は弱い」「トリチウムは体内に蓄積されない」「ベータ線でDNAが傷ついても修復され問題ない」という話だ。これについて筆者は、後述する「トリチウム水の生体内の挙動」の項目で詳しく述べる。

 復興庁の動画で話されているように、単純な「トリチウム水」は体内から容易に出ていくことは確かだ。しかし、「有機結合型トリチウム」は体内の構成物質に取り込まれ、そのトリチウムにより「内部被曝」が起きるため、単純な問題ではない。詳しくは、後述する「トリチウム水の生体内の挙動」の項目を参照してほしい。

 3つ目は、「取り除けるものは徹底的に取り除き、大幅に薄めてから海に流します」。これについても、後述する「『処理水』とは何か。ALPS(多核種除去設備)の問題~本当に処理されているのか」「放射性炭素14C問題」の項目などで詳しく述べるが、「ALPSでは放射性物質を完全には取り除けない」ということだ。東電も認めているにもかかわらず、動画では「取り除けるものは徹底的に取り除き」と話しているが、うがった見方をすれば、「取り除けないものは、そのままにして海洋放出します」という意味とも読み取れる。

余談

 50~60年代に、核実験において「極めて高い放射線を出す微粒子」が降り注いでいた事実を知っているだろうか。筆者も、福島原発事故で放射線の専門書を読んで初めて知ったことであるが、大気中の核実験、とくに日本より西に位置する「ソ連」や「中国」の大気中核実験により、これらの放射性物質が偏西風に乗って日本に飛来した。

 新潟大学の小山誠太郎氏(著書:『環境と放射能 汚染の実態と問題点』)が調査しており、「ホット・パーティクル」や「ジャイアント・パーティクル」と呼ばれていた。当時、筆者はまだ子どもだったが、頭部の円形脱毛症が流行し「風土病」と言われていた(筆者は岩手県と福島県で確認した)。筆者は、この事実を知ってから「ホット・パーティクル」と円形脱毛症の関連性を疑い、医師に相談した。当医師は、興味を示したが、高齢のため、調査をしないまま3年前に亡くなった。

 「ホット・パーティクル」の事実は、ヨーロッパでは問題視されたが、日本では報道されなかったと記憶している。小山氏のこの論文自体が忘れ去られており、1970年代および新潟県と広島県の論文に見かけるだけである。

(つづく)


<プロフィール>
千葉 茂樹
(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ。岩手県一関市出身。専門は火山地質学。2011年3月の福島第1原発事故の際、福島市渡利に居住していたことから、専門外の放射性物質による汚染の研究を始め、現在も継続している。

データ・マックスの記事
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 【東日本大震災から10年(2)】福島第一原発事故から10年、放射性物質汚染の現状 公的除染終了後の問題

著者の論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
 原発事故関係の論文
 磐梯山関係の論文

この他に、「富士山、可視北端の福島県からの姿」などの多数の論文がある。

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