2024年04月20日( 土 )

【参院広島選挙区】菅政権「全敗」の衝撃 “広島モデル”で政権交代なるか

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進次郎、丸川、茂木……大物続々投入と団体選挙の必勝方程式でも敗北

 事実上の一騎打ちとなった参院広島選挙区の再選挙が25日投開票され、野党統一候補の宮口治子氏(立民・国民・社民推薦)が自民党公認の西田英範氏(公明推薦)を破って初当選した。

宮口氏、勝利のグータッチ
宮口氏、勝利のグータッチ

 午後11時前、民放に続いてNHKが「当選確実」を出すと、選挙事務所では歓声や拍手が沸き起こった。近くのホテルで待機していた宮口氏が姿を現すと、選対幹部の佐藤公治・立民県連代表(広嶌6区)らとグータッチをした後、万歳三唱を繰り返す。宮口氏は目に涙を浮かべながら、「小さな声をしっかりと聞いていきたい。この気持ちを忘れず、皆さまのお役に立ちたい」と何度も頭を下げながら挨拶をした。

 7小選挙区のうち6小選挙区を自民が制していた保守王国・広島で野党系候補が奇跡的な勝利を収めたことで、25日の同日トリプル選で1勝1敗1不戦敗を狙った菅政権に大打撃を与えている。「菅首相では選挙が戦えない」といった声が自民党内で強まって“菅降ろし”の可能性が高まると同時に、「宏池会」発祥地でもある岸田派の牙城での敗北で、岸田文雄・県連会長の総裁選再チャレンジの芽もほぼ消え去ったのだ。

最終日、自民党公認の西田英範氏(公明推薦)
最終日、自民党公認の西田英範氏(公明推薦)

 岸田派は、今回の再選挙を総裁選予備選のように位置付けて、幹部が続々と広島入り。「再選挙勝利は岸田首相誕生の第一歩」(小野寺五典・元防衛大臣)と訴えていたが、結果的に菅首相と同じように「岸田首相は選挙の顔にはならない」と印象づけることになってしまった。

自民党・西田候補の演説会場には揃いのユニフォームの一団が目立った
自民党・西田候補の演説会場には
揃いのユニフォームの一団が目立った

 自公ともに総力戦を繰り広げていただけにダメージは大きい。告示前から、西田候補の街宣場所にはユニフォーム姿の建設業者らが目につき、地元企業のすぐ隣を街宣場所に選んで大量動員をするなど徹底した企業団体選挙を展開。街宣には地元首長や地方議員もずらりと並んで、西田候補への支持を訴えた。つまり、保守王国を支えてきた組織を総動員して、「政治とカネの問題」の逆風を跳ね返そうとしていたのだ。

 中央の大物政治家も続々と登場。選挙戦最終日に西田候補は小泉進次郎環境大臣とリモートで意見交換した後、昼頃に応援演説をした丸山珠代・五輪担当大臣と一緒に中心街を練り歩いた。そして夕方には、茂木敏充外務大臣が最後の街宣でマイクを握った。この日だけで3大臣の応援を受けたにも関わらず、それでも当選に至らなかったのだ。

最終日には、丸山珠代・五輪担当大臣を先頭に「練り歩き」
最終日には、丸山珠代・五輪担当大臣を先頭に「練り歩き」

コロナ対策失敗も野党勝利の追い風に

枝野代表三度目の広島入り
枝野代表三度目の広島入り

 一方の野党は勢いづいている。立民の枝野幸男代表は3度も広島入りをして応援演説。政治とカネの問題に加えて、菅政権の新型コロナウイルス対策を「同じ失敗を繰り返している」と批判。封じ込めに成功している3カ国(台湾・ニュージーランド・オーストラリア)のコロナ対策を紹介しながら、政権交代でコロナ対策をやるしかないと訴えたのだ。

宮口氏は、当選を決めた翌26日にも街頭演説に立った
宮口氏は、当選を決めた翌26日にも街頭演説に立った

 当確後の囲み取材で、宮口氏に「コロナ対策が1つの追い風になりましたか。(菅)政権のやり方がひどいと蓮舫さんや枝野代表が批判していたが」と聞くと、次のような回答が返ってきた。

「とくに今回、第4波も出てしまって緊急事態宣言が出てしまっている。同じことの繰り返し、リバウンドしているという意味では(菅政権の)対応がどうなのかと。封じ込めに成功している海外の国、台湾を含めてありますから、そういったところでできて、どうして日本でできないのかとあると思います」

 「政治とカネの問題」への有権者の強い反発に加えて、菅政権のコロナ対策失敗も勝因の1つと感じているというのだ。翌26日朝、宮口氏は市内中心部のバスセンターの前で朝立ち。通勤途中の市民に手を振りながら挨拶をする活動から始めた。終了後には、前日に続いて囲み取材に応じた。そこで、買収事件で真相解明が不十分な資金の流れについて聞いた。

 ――(2017年参院選で提供された自民党本部からの)1憶5,000万円の追及も先頭に立ちたいということか。

 宮口氏 今回の結果を受けて、自民党の方々の考えることはたくさんあると思います。(有権者の)皆さんと向き合っていく。どういうことがあったのかをきちんと説明していって欲しいという思いは強くあります

「結集ひろしま」から「結集日本」へ

 今回の再選挙で、政権交代を実現する野党の勝利の方程式がみえてきた。それは、河井夫妻の買収事件や吉川貴盛・元農水大臣の収賄事件、菅原一秀・元経産大臣の公選法違反疑惑など安倍・菅政権で相次ぐ「政治とカネの問題」と、コロナ対策の失敗(政権担当能力の欠如)を二大争点にすれば、たとえ保守地盤の厚い地域でも野党の勝機は十分、次期総選挙での政権交代も夢ではないということだ。

 菅政権(首相)が勝利を確信していた広島再選挙での敗北は野党を一気に勢いづかせ、政権交代の現実味を有権者に印象づける絶好の機会にもなった。今回の選挙母体となった「結集ひろしま」代表の佐藤公治衆院議員は、「広島再選挙では、党派を超えた人たちが結集して勝利となった。これを各地に広げて『結集日本』を目指したい。広島から日本の政治を変えるのです」と意気込んだ。巨大与党を倒した“広島モデル”が次期総選挙までにどれだけ広がっていくのかが注目される。

【ジャーナリスト/横田 一】

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