2024年03月29日( 金 )

大西一史・熊本市長に聞く、ポスト震災まちづくりの進捗(5)

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熊本市長 大西 一史 氏

 2016年4月に発生した熊本地震から5年が経過した。震災からの復興は、1つの大きな節目を迎えている。復興のシンボルである熊本城は、天守閣の復旧工事が完了し、4月26日から内部公開がスタートした。JR熊本駅周辺では、同じく4月23日には「アミュプラザくまもと」が開業。駅前のさらなる賑わいへの期待が高まっている。熊本市内を見渡すと、商業施設、バスターミナルなどからなる複合施設「SAKURA MACHI Kumamoto」が19年9月にオープン。街中に防災機能を併せもった新たな拠点が生まれた。熊本市はすでに、震災復興に転じたといえるのか。この節目を機に、今後どのようなまちづくりを進めていくのか。大西一史・熊本市長に話を聞いた。

「命」を守るのが政治家の責任

 ――災害は地震だけではありません。近年頻発している水害への備えについて、どうお考えですか。

熊本市長 大西 一史 氏
熊本市長 大西 一史 氏

 大西 本市では昨年、統合型のハザードマップの運用をスタートしたところであり、今後スマートフォンなども活用しながら、市民の皆さまにより積極的に情報発信していくことにしています。ただ、熊本市の真ん中を白川が流れていることを考えると、河川氾濫の危険性とは常に隣り合わせの状況です。

 20年7月に球磨川で水害が発生しましたが、そのときと同じ雨量が白川に降った場合をシミュレーションしてみたところ、市内92の小学校区のうち48校区が浸水するという結果が出ました。これだけの浸水から被害を最低限に食い止めるためには、市民の皆さまの早期避難という「自助」が不可欠になってきます。そこに、熊本地震を教訓に各小学校区で結成された校区防災連絡会を軸にした「共助」が加わってくるわけです。また、国の方では、避難勧告を避難指示に一本化する内容を盛り込んだ災害対策基本法の改正が進められていますが、私もアラートの情報をわかりやすくして、市民の皆さまに早期避難してもらうことは大切なことだと考えています。

 昨年9月に発生した台風10号の際には、早く備えることが大事だという私の判断で、台風が来る2日前に記者会見を開いて避難指示を発令し、避難所を開設して多くの方々に避難してもらいました。また、市役所も閉めました。幸い大きな被害は出ませんでした。「空振り」と言われればその通りですが、空振りを恐れず避難指示を発令して早めの対応を行ったことは良かったと考えています。

 通常、自治体は実際に災害が発生してから災害対策本部を立ち上げるものですが、そのときは台風が来る前に立ち上げました。早め早めに手を打つことで、市民の皆さまにも事前に十分に備えていただくようにしました。2カ月前に球磨川水害が発生していたこともありましたが、本市としては、これからも早めの対応を実施していきたいと考えています。

 以上がソフト面での対策ですが、ハード面の対策としては、現在、国の方で立野ダムの建設や河川改修を実施していただいているところです。治水に関するハード整備は大変重要ですが、一方で市民にとってはその効果がわかりにくく、遠い存在なのも事実です。

 道路や橋などは、開通を祝って式典を開くことがありますが、ダムはともかく、河川改修で式典を開くことはありません。目立たないけれども、市民の皆さまの命を守っているという事実について、もっと知っていただかないといけないのではないかと、最近とくに思うようになりました。そのためには、ダムや河川改修によって、どれだけの効果があるのか、しっかり広報していくことが大切だと感じています。

 それはやはり「命」に関わる部分だからです。効率だけを追求すると、命を守れない場合もあります。首長として、政治家として、市民の皆さまの生命と財産、暮らしを守るために、市民に対して説明していく姿勢が求められていると感じています。そのためには、耳当たりの良いことだけでなく、ときには嫌なこともいっていかないといけません。それは新型コロナウイルスへの対策についても同じことがいえますし、それが首長、政治家としての責任であり、覚悟であると改めて考えるようになっています。

全国都市緑化くまもとフェアの案内(HPより)
全国都市緑化くまもとフェアの案内(HPより)

【フリーランスライター・大石 恭正】

(了)


<プロフィール>
大西 一史
(おおにし・かずふみ)
1967年12月、熊本市生まれ。92年に日本大学文理学部心理学科卒業後、日商岩井メカトロニクス(株)に入社し、94年に退職。内閣官房副長官秘書を経て、97年に熊本県議に就任(5期)。2014年12月に熊本市長に就任し、現在2期目。

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