2024年04月23日( 火 )

知的に自立した若者を育てよ〜教育現場からの報告と提言(1)

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ライター 黒川 晶

凋落を続ける経済大国ニッポン

 「経済大国ニッポン」の凋落に歯止めがかからない。かつて米国につぐ世界第2位の規模を誇った日本の名目GDPは、2010年に中国に逆転された後、挽回するどころか、今や中国とは3倍もの差が開いてしまった。

 1人あたりのGDPにしても03年にトップ10から転落し、その後もジリジリと順位を落とし続け、13年以降は20位台中盤が定位置(20年は23位)に。韓国(同27位)、台湾(同31位)に追い抜かれるのも時間の問題といわれている。日本はこの20年間、世界の経済成長を牽引するどころか、これについていけていないのである。

 スイス・ローザンヌに拠点を置くビジネススクール「国際経営研究所(IMD)」が毎年公表している「世界競争力年鑑(World Competitiveness Yearbook)」で、1989年から96年まで総合競争力ランキングベスト5の常連であった日本は、97年に17位に急落。その後もずるずると順位を落とし続け、20年は過去最低の34位にまで落ち込んでいる。

 由々しい事態である。グローバル経済の時代にあって、競争力の低下は有力企業の海外流出や外資による買収を加速させ、国の産業を衰退させる。労働条件は悪化し、貧しくなった国民はますます子どもを生み育てられなくなるだろう。そうして労働人口が減り、生産力も開発力も低下、それが競争力を一層低下させ… というように、経済は縮小再生産の悪循環に陥り、国力は低下の一途をたどる。

 このことは国際社会におけるプレゼンスを低下させ、外交的に不利になるだけでなく、国内に不正と社会不安、悲惨な状況が蔓延する。日本は今まさに、そうした負のスパイラルにはまり込んでいる。

 貿易にせよ国防にせよ、相手国からカモにされて終わることがすっかり板についた我が国の外交。繰り返される有力企業の身売りや大量リストラ。官民癒着の横行。世論の急速な右傾化と露骨化する外国人・女性差別。次々と報じられる子どもの貧困や経済苦による自殺、餓死のニュース。何よりも、こうしたことに対する人々の無関心…。「貧すれば鈍する」というが、いったいどこの途上国の話かと思わせるような状況ではないだろうか。

 日本を弱体化させたものは何か。現状打開の意味も込めて、各方面からさまざまな指摘が行われてきた。

 日米構造協議から年次改革要望書に至るまで、一連の米国の要求に歴代政府が唯々諾々と聞き従い、日本の富を米資本による蚕食に提供し続けたこと。バブル崩壊によって負った痛手からの回復を急ぐあまり、各企業がコストカットに血眼となり、人材の確保や育成、設備投資がなおざりになってしまったこと。高度成長期の成功体験から経営者たちが旧来のビジネスモデルや経営方針に固執し、経済のグローバリゼーションや技術革新に乗り遅れたことなど。そして、こうした指摘の合間に、若者の「劣化」がしばしば話題に上る。

 ネット上では、就活生や若い社員に対する嘆きの声で溢れている。礼儀を知らない、主体性や覇気に欠ける、労働意欲も向上心も希薄、自己中心的な考え方や振る舞いをする、すぐ辞めるなどである。 若者の間で、一社員として会社の成長に貢献しつつ、家や国を豊かにしようといった気概が失われてしまったというわけである。

 筆者は20年近く大学で教鞭を執っているが、たしかにかつてのモーレツ社員のような経済的成長に対する熱意は、年を追うごとに薄らいでいったように思われる。しかし、彼らは「劣化」などしていない。むしろ、彼らと交流を重ねるなかで強く感じ取れるのは、現実を敏感かつ冷静に受け止めたうえでの極度に肥大化した自己防衛本能と、それに裏づけられた処世術としての老獪さである。

(つづく)

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