2024年04月20日( 土 )

豪雨・台風による停電も太陽光発電で電力確保(前)

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 2019年の台風15号で電力系統の復旧が進まずに千葉県広域で長期間の停電が続いたことから、停電時の地域自立型の電力供給が模索されている。(株)次世代商品開発研究所が開発した電源ポール(ストリートライト)は、ソーラーシートにより電力を使う場所で発電できる。太陽光発電を用いた災害対策の可能性を探った。

停電時の電力確保

電源ポール(ストリートライト)
電源ポール
(ストリートライト)

 19年の台風15号(房総半島台風)では、電柱が倒れるなど被害が広域におよんだ。倒木で道路が通行できないなどの理由で復旧作業が難航し、大規模停電が千葉県で1~2週間続いた。

 豪雨や台風などの災害が激甚化するなか、停電時に地域の電力を確保する手段として、太陽光発電などの再生可能エネルギーの活用が見込まれている。ソーラーパネルで発電した電力を夜間の照明やスマホの充電などに使うことができれば、インフラが復旧するまで代わりの電力を地域で確保できる。

 太陽光発電の電力をパワーコンディショナーの活用によって地域で使える電力に変換すれば、停電時でも家庭などに送電できる。しかし、太陽光発電ができても、台風・豪雨などで地域の送電線に1つでも破損があると、復旧するまで送電線を使って地域に送電できなくなってしまう。この問題を解決するために、2つの方法が検討されている。

 1つ目は、周辺地域で一部の送電網が破損して停電になったときに、地域内配電網の購入や賃借により電力を利用できるようにする方法。2つ目は、送電事業者の送電網利用にとどまらず、商用電源との接続が不要な独立電源として太陽光発電を利用する方法だ。

 停電時でも使用できる太陽光発電設備を開発・製造するオーエスグループの(株)次世代商品開発研究所では今年3月、電力を利用する場所で太陽光発電ができる電源ポール(ストリートライト)を開発した。

 道路や施設の屋外照明となる街灯の柱部分が円筒形の太陽光発電装置(ソーラーシート)となっていて、電灯が必要な場所で発電できる。映像用のプロジェクタースクリーンメーカーであるオーエスグループが、災害対策で利用できる再エネとしてソーラーシートに着目したきっかけは10年前の東日本大震災だった。

ソーラーシートを引き出せる太陽光発電装置
ソーラーシートを引き出せる太陽光発電装置

東日本大震災がきっかけに

(株)次世代商品開発研究所代表取締役・奥村正之氏
(株)次世代商品開発研究所代表取締役・奥村正之氏

 同社代表取締役・奥村正之氏は「ストリートライトを開発したのは、10年以上前に大手電気機器メーカーから日本製のソーラーシート(最大出力2W)を製品化してほしいとの話をいただいたことがきっかけでした。薄くて軽く、筒状にしたり巻いたりできるというソーラーパネルにない特徴をもつ素材のため、スクリーンの巻取技術が応用できると考え、商品化にチャレンジしてみようと開発を始めました」と当時を振り返る。

 まず初めにつくったのが、充電式のニッケル水素バッテリーと電力を取り出す電子基板を備え、ソーラーシートを引き出せるようにした太陽光発電装置だった。晴天時には、約5台の携帯電話や災害用ランタンを充電できる電力を発電できる。この太陽光発電装置を発表し、テストマーケティングや啓蒙活動を始めて間もない11年3月に、東日本大震災が発生した。

 「地震や津波による停電で電力が届かずに困っている多くの人々がいるのをテレビで目の当たりにして大きな衝撃を受け、約500台の太陽光発電装置を岩手県・宮城県・福島県に寄贈しました。人口が多い被災地には自衛隊が直接赴いて支援していましたが、自衛隊の手が回らない人口の少ない地域に救援物資として届けることで、少しでも人々の生活を支援できればと考えました。災害用ランタンや携帯の充電ケーブルも一緒に寄贈したため、『家族と携帯で連絡が取れるようになった』『電気がなくても、災害用ランタンを使って夜間にトイレに行けるようになった』という多くの声を被災者からいただき、災害で困っているときに活躍できるものだと実感しました」(奥村氏)。

 同社では、災害対策で社会の役に立てるのではないかと思い、事業化に本格的に乗り出した。ソーラーシートはフッ素樹脂で覆われているため、雨に濡れても問題なく発電できて、柔らかい素材のため、物をぶつけたり粗雑に扱ったりしてもガラスのように割れることもない。従来のソーラー設備の概念を覆すこれらの点を災害対策に生かせるのではないかと考えたという。

ソーラーシートチャージャー
ソーラーシートチャージャー

 その後、発電した電力を長時間溜められるように開発した外付けバッテリーと、天候を問わず安定出力ができるDCDCコンバーター(※)を備えたコンパクトなソーラーシートチャージャー(GNシリーズ)を開発。スマホを2時間で充電できるようになり、重量も初期型装置の約3kgから約140gに軽量化した。地面に設置して発電できるほか、リュックに背負えば歩きながら場所を問わずに充電もできる。 

 一方、通常のソーラーパネルの発電効率は20%前後であるが、薄膜のソーラーシートの発電効率は8%前後のため、活用できる機器が限られていた。そこで、同社では発電効率が2倍以上の最大18%を超える(平均16~17%)ソーラーシートを米国シリコンバレーから入手し、性能強化に向けて開発を進めた。

 地震や台風などの災害時には、インフラをいかに早く確保できるかが、避難や救命、安否確認、復旧の先行きを大きく左右する。そこで、災害時に電力を供給できるステーションをつくることが必要と考え、太陽光発電を利用した独立電源型の電源ポール(ストリートライト)を開発した。

(つづく)

【石井 ゆかり】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:奥村 正之
所在地:大阪市西成区南津守6-5-53号オーエス大阪ビル
設 立:2006年4月
資本金:1,500万円

(後)

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