2024年04月23日( 火 )

「韓日関係の真の和解と友好は九州から」 九州の両国友好親善の基盤をさらに強固に(中)

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 新型コロナウイルスの影響で人的往来が大幅に制限され、大きな影響を受けている九州―韓国関係。昨年、駐福岡大韓民国総領事として着任した李熙燮氏は、コロナ禍でも日韓社会の将来を展望し、草の根・民間レベル、自治体レベルで多分野の交流を促進することにより、日韓関係を先導することを提唱する。李総領事に話を聞いた。

   李 九州地域と韓国の地方自治体間の交流については、代表的な交流協議体である「日韓海峡沿岸県市道交流知事会議(韓日海峡沿岸市道県交流知事会議)」をはじめ、41の姉妹・友好都市協定が結ばれており、政治、経済、文化、観光、青少年、留学生・教育(九州の72校の大学と韓国207校の大学・機関との間に428件の各種交流が進行中)、スポーツなど多方面にわたって活発に交流が行われています。南西部の全羅南道の順天(スンチョン)市と鹿児島県の出水市は、渡り鳥のナベヅルがシベリアから越冬のために訪れるという共通点があることから、09年にツルの保護のための友好交流提携を締結し、12年には姉妹・友好都市協定を締結しています。出水市は湿地の保存に関する国際条約「ラムサール条約」への「出水ツル渡来地」の登録を目指しており、4月に椎木伸一出水市長が来館された際にもそのための協力などについて協議しました。

 2月、薩摩焼の15代沈壽官の大迫一輝氏が駐鹿児島大韓民国名誉総領事に任命され、4月初旬に沈壽官窯で塩田康一鹿児島県知事をはじめとする来賓に見守られ、名誉総領事館の開館式が開催されました。韓日関係が難しい状況でも、このような努力が両国関係を改善に導き、友好親善ならびに草の根民間交流に大きく寄与するものと信じています。

 九州地域の韓国との密接な関係は、1965年の韓日国交正常化に先んじて長崎で日韓親善協会が発足し、それが日本全国に広がったという先導的な役割をはたしたことからもうかがえます。最近の両国関係やコロナ禍という困難な状況にもかかわらず、福岡県日韓親善協会には昨年29名もの新規会員が加入し、大変ありがたく感じています。福岡ではほかにも日韓交流博多会(ナドリ倶楽部)(通称:ナドリ会)、福岡韓友会などさまざまな韓日親善団体が交流事業を行っており、「釜山-福岡フォーラム」といったオピニオンリーダーの集いも活発に活動しています。このように韓日関係に関心と愛情をもった大勢の皆さまが縁の下で韓日親善を支えてくれており、両国関係の根は非常に盤石であると思います。総領事館として韓日関係の貴重な財産である皆さまを懸命にサポートしていく考えです。

 総領事館のモットーは「韓日関係の真の和解と友好は九州から」です。韓日関係が速やかに回復し、再び以前の友好親善関係を発展させていくため、韓国―九州が先導していけるようにさまざまな努力を傾注していきます。

駐鹿児島名誉総領事館開館式
駐鹿児島名誉総領事館開館式

釜山との超広域経済圏を

 ――九州・福岡において日韓はどのような協力を行うべきでしょうか。

 李 多くの国家が直面している現象ですが、人口減少と地方消滅、低成長というメガトレンドが立ちはだかる地方都市にとって、海外はニューフロンティアです。韓国-九州・福岡間の交流・協力についても、地域の発展、住民の生活の質の向上、競争力の強化というパラダイムで捉えるべきだと考えます。たとえば姉妹・友好都市提携を通して働き手、留学生、観光客、市場開拓などを確保することによって地方創生の基盤を広げていけるでしょう。自治体の交流協力はWin-Winの効果を生み出すことができ、今後、地域活性化と共同繁栄を図るうえで選択というよりも必須事項になるといっても過言ではありません。

 福岡市は釜山広域市と地理的に非常に近く相互交流が活発であり、一日生活圏といえるでしょう。両市は相互交流・協力を通した国際都市間「超広域経済圏形成」を目標に、経済協力事務所を双方に設置して職員の相互派遣・交流を行い、08年に経済協力協議会をスタートさせ、共同研究や交流、協力を推し進めています。このような取り組みが軌道に乗り、両市が1つの経済圏として機能していくことで、長期的には韓国東南圏-九州間の超広域経済圏へと拡張・発展することを期待しています。

 ――文化交流へのコロナの影響は?

 李 コロナ禍のため、「九州オルレウォーキング」のような大人数で集まる文化行事の実施が難しくなりました。そこで総領事館では現状に鑑みて、これまでの日本人参加者を対象として行った公募展を通じて制作した紀行文集や、オンラインによる意思疎通で共感を育む取り組みなどを行っているほか、「九州の中の韓国探し」イベントは規模を縮小して開催しました。

 コロナ禍でも韓日間の相互疎通と交流を図るため、20年11月、20~30代の日本人5名で構成する総領事館SNSサポーターズを発足させ、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなどSNSを通じて日本社会に向けて韓国の情報を発信する活動を展開しています。

 他方、コロナ感染拡大にともなって日常生活が変化するなかで、プラスとなる現象も起きています。外出自粛のために動画配信サービスなどの利用が増え、『愛の不時着』『梨泰院クラス』などの韓国ドラマが日本でも非常に大きな話題となりました。第4次韓流ブームが到来したという見方もされています。この傾向がコロナ収束以降も韓日文化の幅広い交流につながることを期待しています。

 九州地域の韓国人留学生はコロナ禍以前には約1,650人(19年)で、昨年は約1,450人と減少しましたが、コロナが収束すれば以前の水準に戻ると予測しています。韓国人を含む留学生は日本の大学のみならず、地域の行事・活動の担い手となり、アルバイトをして、地域にとっても欠かせない存在になっていると思います。立命館アジア太平洋大学のある別府市などはとくにそうです。卒業後も日本の企業などで活躍している韓国人は多くいます。日本での就業を望む留学生への支援として、自治体や経済団体などと協力し、外国人人材を求める企業の説明会も続けています。

(つづく)

【茅野 雅弘】


<プロフィール>
李 熙燮(
イ・ヒソプ)
1962年生まれ。85年延世大学校卒業、87年外交部入部。北東アジア課長、駐オーストラリア大使館公使参事官、駐インドネシア大使館公使、大統領秘書室勤務、駐日本国大使館公使などを経て、2020年11月に駐福岡総領事として着任。

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