2022年01月18日( 火 )
by データ・マックス

バイデン大統領を手玉に取り世界制覇を狙うイーロン・マスクの戦略(前)

国際未来科学研究所代表 浜田 和幸

 電気自動車テスラの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏は、バイデン大統領の誕生に向けて、水面下で支援を惜しまなかった甲斐があり、電気自動車の普及に欠かせない予算をバイデン新政権から勝ち取ることに成功した。マスク氏は独自の発想からアメリカの政治を動かして、新たなビジネスに結び付けようと考えをめぐらせている。

 イーロン・マスク氏といえば、電気自動車テスラの製造販売で世界一の地位にある。また、その代金をビットコインで受け取る方針を打ち出すなど、新規事業の旗頭と言っても過言ではない。また、スペースXを通じて宇宙ロケットビジネスにも挑戦し、将来は火星にコロニーを建設するとも息巻いている。そこで流通するのはドルではなく、暗号通貨のビットコインというわけだ。

宇宙 ニューラリンク イメージ スペースXは2024年までに航空機産業を飲み込む戦略を秘めている。従来の飛行機をスペースXの「スターシップ・ロケット」に取って代わらせる。そうすれば、地球上のどの地点からどの地点まででも40分以内に移動できるようにできる。しかも、燃料はクリーンなメタン(CH4)を使うので、環境に負荷をかけないという。

 さらには、人の脳と人工知能(AI)を合体させる「ニューラリンク」という未来ビジネスも立ち上げた。そんなマスク氏は独自の発想からアメリカの政治を動かし、環境問題や医療分野にも進出を意図しているようだ。現在、世界を襲っている新型コロナウィルスについても、「ピンチをチャンスに変える」との思いで、新たなビジネスに結び付けようと考えをめぐらしていると思われる。

 その過程では、政治を味方につけることが欠かせない。実は、マスク氏はトランプ大統領と一時は親密な関係となり、ホワイトハウスで開催される大統領諮問員会のメンバーにも就任していた。環境問題やエネルギー政策に助言をすることになったのであるが、トランプ大統領がパリ協定から離脱したのみならず、電気自動車への支援策を講じようとしないため、袂を分かつことになった。

 そして、トランプ氏からバイデン氏に乗り換えたのである。余談だが、先の大統領選挙におけるアメリカのビッグ・ファーマ(大手製薬会社)によるバイデン氏への献金額は590万ドルであった。一方、トランプ氏への献金額は150万ドルに達しなかった。その最大の理由は、トランプ氏が大統領令によって、薬価の切り下げを強硬に実現しようとしたためである。

 アメリカで使われている医薬品の90%は低価格が売り物のジェネリックであり、製薬会社にとっては厳しい経営環境が続いている。ビッグ・ファーマとすれば、新薬の開発にも前向きなバイデン氏のほうが、何を仕出かすか、先の読めないトランプよりは頼りがいがあると判断したに違いない。

 従来、製薬業界は共和党支持であったが、今回はバイデン氏ならびに民主党候補への政治献金が急増した。ひとえに、コロナ騒動が発生した時点から「通常のインフルエンザと変わらない。コロナなんか怖くない。ワクチンなど必要ない」など、専門家の意見を無視し続け、身内の娘婿クシュナー氏が推薦する医療とは無関係な会社に人工呼吸器や感染防護服などを優先的に発注するなど、身勝手に予算を振り分けたトランプ氏に見切りをつけたかたちである。

 これはまずいと思ったのか、トランプ氏は選挙戦の終盤になると、突然、「ファイザーもモデルナもすばらしい貢献をしている」と取ってつけたような発言を繰り出したが、時すでに遅しであった。

 話をマスク氏に戻すが、その後、バイデン候補の選挙事務所の資金集めの責任者にテスラの幹部を送り込むなど、バイデン大統領の誕生に向けて、水面下で支援を惜しまなかった。その甲斐あって、バイデン新政権からは電気自動車の普及に欠かせない充電設備やインフラ整備の予算を勝ち取ることに成功。何しろ、バイデン大統領が掲げる2兆ドルの社会インフラ整備予算の大半がマスク氏関連と言っても過言ではないからだ。

 環境対策の面からも、アメリカでも中国でも電気自動車の普及は確実視されている。「2040年までに電気自動車の占める比率は現在の4%から70%に伸びる」と予測されているほどである。バイデン政権では政府の公用車はもちろん、消防車、救急車、郵便配達車などもすべて電気自動車に変える方針を打ち出している。世界最大の電気自動車メーカーを率いるマスクにとってはわが世の春の到来といえそうだ。勢いに乗るマスクは時速627kmの超高速車「モデルS」を発表した。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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