2024年04月19日( 金 )

ウッドショックが問う日本の住宅・林業界の行く末(中)

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外国産依存と林業の衰退(つづき)

 農林水産省は09年12月、日本の森林・林業を再生する指針となる「森林・林業再生プラン」を策定した。「10年後の木材自給率50%以上」を目指すべき姿として掲げ、森林の多面的機能の確保を図りつつ、先人たちが築き上げた人工林資源を積極的に活用して、木材の安定供給体制の確立のほか、雇用の増大を通じた山村の活性化、木材利用を通じた低炭素社会の構築を図ることとしている。一方で、伐採業者の人材不足(図3)や林道設備の問題にともなう物流環境問題などが足かせとなっている状況がある。

 とくに林業従事者数の減少と高齢化は、大きな課題だ。総務省が行った国税調査によれば、林業従事者は1985年(12万6,343人)から減少を続け、15年には4万5,440人となったほか、高齢化率は同期間で8%から25%まで上昇した。林野庁が今年6月1日に発表した「令和2年度 森林・林業白書」によると、常時雇用者数の増加や、事業規模約2,400億円の維持、高性能林業機械の普及による生産性向上などから、業界の一部が回復の兆しにあるとしつつも、労働環境の改善に向けては、引き続き課題が残されているとしている。

 ウッドショックでこれまで依存してきた外国産木材の仕入れが厳しい状況となった今、改めて国産木材へ注目が集まっているものの、急速にシフトチェンジすることは容易ではないのだ。

(図3)林業従事者数の推移
(図3)林業従事者数の推移

短期的影響は小規模も

 ウッドショックの影響を「20年の夏から秋にかけて」とする企業は多い。木材不足や高騰による納期遅れや単価の上昇が危惧されるが、短期的な影響は小規模となっているようだ。各ハウスメーカーに話を聞いたところ、「すでに契約していた住居分には影響がない」「独自のルートで確保していた仕入量を考慮すれば大丈夫」といった声が多かった。

 しかし、これは「まだ耐えることができている」状況といえる。今後、ウッドショックの要因となっている米国をはじめとする諸外国の木材需要高騰やコンテナ不足によるサプライチェーンの混乱が長引けば、輸入木材価格のさらなる高騰は避けられない。業界全体で見れば影響は小規模といえども、資金規模が大手に劣る地方の各中小ハウスメーカーでは、すでに新規契約案件においては値上げに着手している企業も少なくない。

木材 イメージ 「約1割の値上げが必要」という声が多かったが、地域や企業によって大きく差が出てくることが予見される。1つは、木材の在庫をもつことが困難であることだ。木材は、大手商社が輸入し、プレカット工場が加工・製品化してハウスメーカーに供給されるのが一般的だ。では、なぜ需要が高止まりしているのに、輸入量を増やして安定供給しないのか――。その理由の1つとして、大量の木材を保管することができるプレカット業者が限られることなどが挙げられるが、2つ目はその他諸外国の需要急騰の可能性だ。

 前出の「令和2年度 森林・林業白書」によると、世界の木材(産業用丸太・製材・合板等)輸入量は10年以降年々増加しており、消費量は10年の17億2,592万m3に対し19年は20億3,096万m3となるなど、ウッドショック以前から世界的な木材の需要は増加傾向にあった。加えて、米国・中国を中心にワクチン接種が進み、経済活動が活発になってきたことで住宅着工数も増加してきた。

 住宅着工数以外の需要が跳ね上がっている状況もある。「ウッドショックの要因として住宅着工数などの数字に目が行きがちですが、米国のDIYによる一般消費量やコンテナ運送に利用される木枠(パレット)の消費量は、住宅に使う消費量と同等レベルだと言われており、注意が必要です」((株)オープンハウス・ディベロップメント 建設事業部建設部・部長 戸和寛文氏)。

 このように、世界的な需要が増加する要因は多いにもかかわらず、伐採量や物流量の問題から供給による市場バランスが取りにくい状況が、今後の供給に不安を残す要因となっている。

(つづく)

【麓 由哉】

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