【IR福岡誘致開発特別連載45】IR誘致開発事業とは日米経済安全保障の最たるもの
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先日、IR長崎に関して、NIKI Chyau Fwu(Parkview)Group(本社:香港)が、来たる今夏のRFP、すなわち本件計画提案書の提出に際して、日本の大手ゼネコンの(株)安藤・間と大阪市の(株)奥村組、長崎市の(株)谷川建設が参加し、後に事業母体コンソーシアムを構成すると報じられた。これは非常に的外れな報道であり、辻褄が合わない話だ。
なぜなら、IR長崎の計画総投資額は上限4,600億円規模(公示)の超巨大なプロジェクトであり、その必須なコンソーシアム参加に必要なエクイティ(返済義務のない総資本)投資額は1,000億円前後と仮定される。しかし、上記3社の資本金、直近の売上高は、それぞれ安藤・間が約170億円、約3,500億円(2021年3月期、連結)、奥村組は198億円、約2,200億円(21年3月期)、谷川建設は1億円、約190億円(20年11月期)である。この規模では必要な資金を拠出するには相当な無理を強いられることになり、本当に実行可能とは思えない。
ちなみに、先日告知された横浜IRの主体はGenting Singaporeにセガサミー、スーパーゼネコン3社(鹿島.竹中.大林)とALSOKである。このゼネコン3社のうち、鹿島建設だけをみても、資本金約814億円、売上高1兆9,000円以上(21年3月期、連結)である。大阪IRの主体は米国MGMとオリックスであり、横浜、大阪とも、今後IRの事業母体コンソーシアムとなり得る十分な組織構成だ。このようにIR計画に関与する企業の規模に両地域と長崎とでこれだけの差がある。
長崎では国内のメジャーなデベロッパーの参加・投資が見込めない為、自社グループにつながりのある安藤・間らに依頼し、外観だけは整えたように見えなくもないというところだ。しかし、IR事業母体コンソーシアムになり得るのか甚だ疑問だ。それなのに、関連の報道は、発信元からのメッセージを鵜呑みにしており、必要な投資を実行できるのかという点から事業母体について検証をしていない。
加えて、上記ニキチャウフーは香港のパークビュー(不動産開発)が母体の傘下企業である。日本国内においても実績を有するとはいえ、本質的には中華系のIR投資開発企業だ。もっとも、これらはカジノゲーミングオペレーターではないため、別途、オペレーター企業の参加が必要であるが、まだ表に出てきてはいない。事業母体コンソーシアムの核となるのはオペレーター企業であり、その参加が重要となる。
今回のコロナ禍とオリンピックへの対応で平和ボケと危機感の欠如が明らかになった日本の大半の政治家と行政機関にとって、IRの誘致開発は非常に厳しい。なぜ、オリックスという民間企業中心の大阪IRのパートナーは米国MGMなのか、セガサミーの横浜IRのパートナーはGenting Singaporeなのか?その理由は、本件IR誘致開発事業とは、"日米経済安全保障の象徴的な案件"だということだ。
ファーウェイ問題、LINE情報漏洩問題、楽天へのテンセント出資問題、香港からの巨額な金融資産流出問題、国家安全維持法、マネーロンダリングなど米中覇権争いに関する問題は枚挙にいとまがない。
米中覇権争いのなかで、中国の習近平政権は、近年とくに金融資産の流出に過敏になっていて、マカオへの観光規制に躍起になっている。IR和歌山やIR長崎関係者らはいまだにこのことを理解していないようだ。
海外の投資開発企業側も、日本の行政機関とその政治力を過信しているようだ。彼らにはグローバルビジネスの経験も知識はなく、地方の自治体はなおさらだ。
また、香港マカオに在る、現在の中華系のカジノ投資開発企業側も、昨年の香港国家安全維持法の施行後、可能な限り速やかに、自由主義国へ逃避したいと切望している。しかしながら、日米経済安全保障の観点から、これらの企業が日本でカジノライセンスを得ることは難しい。米国と中国の板挟みにあるといえる。
これが、現在のIR誘致開発事業に関わる世界的な政治環境を踏まえた、我が国の現在の状況なのである。
【青木 義彦】
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