【球磨川水害から1年】復旧復興の「スピード感」を維持できるか(後)
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2020年7月上旬に発生した球磨川水害から1年が経過した。球磨川の治水をめぐっては、今年1月には国土交通省が緊急治水対策プロジェクトを取りまとめたほか、今年3月には流域治水プロジェクトや被災自治体の復興計画が策定されるなど、行政の動きだけを追えば、復旧復興に向け、大きく前進しつつあるように見える。それはそれで良いが、気がかりなのは、はたしてプラン通りに物事が運ぶかどうかだ。「民意」とやらに流され、プランをコロコロ変更したおかげで、10数年間にわたってまともな治水対策が打てず、その挙げ句、水害に見舞われ、大きな被害を出したという事実があるからだ。球磨川の治水はこれからどうなるのか。現場取材を含め、最近の動向、今後の見通しなどについて、検証する。まずは、現場取材を基に、復旧復興の現状、見通しなどについて考察する。
ほかの事業を待たないと、本復旧できない
道路復旧関係の工事箇所数は、毎日のように増減しているため、「公表している数字はない」(八代復興事務所担当者)そうだ。「大きな工事から小さな工事まで、数多くの現場が点在している」というのが適切な表現ということになる。工事件数は、100カ所は下らないだろう。
これだけ規模の大きな復旧事業になると、発注工事の不調不落に対する懸念が生じる。これまでのところ、地場の業者を中心に工事発注できているが、「今後はほかの地域の業者の受注も増えるかもしれない」(同)としている。
「早期復旧は我々、地元自治体、住民の総意」(同)という。だが、今後の工事の進捗については、「今のところ何ともいえない」(同)と口を濁す。それというのも、復旧事業の中身である道路のかさ上げ、本橋の建設を進めるうえで、その前提となる高さ、長さなどのスペックすら決められない現状にあるからだ。
球磨川の治水をめぐっては、今年1月に緊急治水対策プロジェクト、3月には流域治水対策プロジェクトがそれぞれ取りまとめられ、引堤や遊水地などといった河川対策、宅地かさ上げや高台移転などの流域対策が同時進行で進められている。
そのため、ある区間の道路をかさ上げするにしても、その地域の宅地かさ上げが何mになるかを確定しなければ、工事に取りかかれないという制約がある。本橋を架けるにしても同様だ。引堤で川幅が何m広がるか、さらにかさ上げが何mになるかが決まらないと、工事着手はおろか、橋梁の形式さえ決められない。
かさ上げや引堤の工期は、規模にもよるが、数年は要する。たとえば、球磨村渡地区では、延長600mにわたり最大約50m川幅を広げる計画がある。これだけの規模の引堤となると、おそらく5年程度はかかるだろう。この間、ずっと待つしかないわけだ。「ほかの事業と足並みをそろえないといけないのが、この事業の難しいところ」(同)とこぼす。
被災自治体のなかには、八代市坂本町のように、「坂本支所周辺の約1万2,000m2を3m程度、25年度までにかさ上げする」とすでに明言している自治体もあるが、財源や工事プロセスの明確化、住民との合意形成など、今後クリアすべき課題を考えると、国としても「はいそうですか」とすぐに乗っかれる話ではないと思われる。
どれだけアクセルを踏めるかがカギ
球磨川の治水をめぐっては、関係者の間で「スピード感をもって」が合言葉のようになっているが、そのこと自体が「普通にやれば時間がかかる」ことをうかがわせる。復興まちづくりなどほかの事業を視野に入れ、目の前の復旧作業を進めるのは欠かせない大事な視点だが、その結果、全体の進捗がスピードダウンしてしまっては、本末転倒という話になる。
レースでたとえると、他事業との連携を含めた工事のプロセスの設定が走行における「ラインどり」だとすれば、工事を進めることは「アクセルを踏む」ことに当たる。
理想的なラインどりは、できるだけアクセルを踏み込むためのものであって、理想的なラインどりに見せるために、アクセルを調整するものではない。なるべくアクセルを緩めず、早くゴールラインを駆け抜けることができるか。球磨川の早期復旧復興のカギは、この点にかかっていると思われる。(了)
【フリーランスライター・大石 恭正】
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