2024年03月19日( 火 )

同一労働同一賃金、個別の処遇は?

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岡本綜合法律事務所 岡本 成史弁護士
岡本弁護士

 前回まで、同じ企業で働く正社員と短時間・有期雇用労働者(以下、パート・有期労働者)との間で、不合理な待遇差を設けることを禁止されることから、これに対応するための社内での待遇の点検・検討の手順などについてご説明いたしました。今回は、個別の処遇について検討します。なお、以下の解説はあくまで例示ですので、同じ名称の手当であっても、会社によってその手当の「性質・目的」が異なる場合には、別の結論になることもあります。ご注意ください。

(1)通勤手当

 正社員には通勤手当を支給するが、パート・有期労働者には支給しないというのは、問題ないでしょうか。

 通勤手当を、職場に来てもらうために必要な交通費として支給している場合、通勤手当の「性質・目的」は、通勤にかかった費用を補てんすることです。つまり「職務の内容」や、転勤や異動の有無・範囲(職務の内容・配置の変更の範囲)といった事情は、通勤手当の支給の有無や支払いの仕方には、あまり関係ないことがわかります。そのため、「その他の事情」がなければ、通勤手当についてパート・有期労働者に支給しないことは「不合理ではない」とはいえず、改善に向けた取り組みが必要です。

 ただし、所定労働日数が多い正社員などには、月額の定期券に相当する額を支給しているけれど、所定労働日数が少ない、または出勤日数が変動するパート・有期労働者には、日額の交通費に相当する額を支給しているといったケースは、「不合理ではない」といえるのではないでしょうか。

(2)役職手当

 主任や店長など、一定の役職に就いている正社員には役職手当が支払われているが、パート・有期労働者には支給しないというのは問題でしょうか。

 役職手当の「性質・目的」を、役職に就く者としての責任の重さを評価して支給すると考えた場合、社員の「業務の内容」や「責任の程度」が、役職手当の支給の有無や支払いの仕方に影響をおよぼすものと考えられます。そうしますと、一定の役職に就いている正社員には役職手当を支給するが、対象役職に就くことが想定されないパート・有期労働者に支給なしとしても「不合理ではない」と考えられます。ただし、正社員の役職と同一の役職で同一の職務を行うパート・有期労働者に役職手当を支給しないとか、正社員よりも低額の手当しか支給しないというのは、問題になり得ます。

(3)皆勤手当

 皆勤手当を正社員には支給しているが、パート・有期労働者には支給していないことは、問題になるでしょうか。

 皆勤手当の「性質・目的」が、たとえば運転業務などで出勤ドライバー数を確保するために皆勤を奨励するという場合、ドライバーという「業務の内容」が皆勤手当の支給の有無に影響をおよぼすものと考えられます。そうしますと、正社員とパート・有期労働者が同じ「業務の内容」である場合に、パート・有期労働者に皆勤手当を支給しないのは「不合理ではない」とはいえず、改善が必要であると考えられます。

 他方で、欠勤についてマイナス査定を行い、これを待遇に反映する正社員には、一定の日数以上出勤した場合に精皆勤手当を支給しているが、欠勤についてのマイナス査定の考課を行っていないパート・有期労働者には、その見合いの範囲内で精皆勤手当を支給していないことは、「不合理ではない」といえるでしょう。


<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所

所在地:福岡市中央区天神3-3-5 天神大産ビル6F
TEL:092-718-1580
URL: https://okamoto-law.com/


<プロフィール>
岡本  成史
(おかもと・しげふみ)弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

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