「考察」ポストコロナの商業デザイン~前編~
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都市のなかのもう1つの都市
その名の通り、キャナルシティ博多の中心には運河(キャナル)がある。緩やかな弧を描く運河を取り囲むように商業施設やホテル、劇場が配置されており、キャナルシティ博多は「建物」ではなく「街」をつくるといった提案だ。中心部には区画されたテナント群が集積され、その周りをオープン通路が包み込む。造形的には、ちょうど天女の羽衣がクネクネと外周部を取り囲んでいるようだ。
キャナルシティ博多の街中には、折れ曲がった道や階段や坂道がある。そこに人は「散策の楽しさを見出す」というのが根本のコンセプトだった。建築には、「土地を読む」というものがある。「その場所でしかできない」「その場所だからこそ」の理由付けになる環境を手繰り寄せていく手法だ。那珂川に沿った運河という必然を想起させるつくり方は、建築家ならではの発想だろう。
閉ざされた商業施設
大型商業施設は、主に高度経済成長期に国内で増殖していった。さまざまな店舗が集まる大箱に、立体駐車場、色とりどりの大型看板。人間のスケールを超えた尺度で設計された構造物に、時にめまいを覚えるほどだ。
しかし、ここで考えてみてほしい。人間が創造し建造する空間のなかで、営業の思想としては「誰でもどうぞ来てください(ウェルカム状態)」と開かれていても、実は外に対してのつくりは閉ざされていることを。建築物特有の役割である延焼防止、耐火性、空調効率、もちろん防犯目的もあるだろう。
接点になるファサードの入口は視線を下げ、広く世間に開けていたとしても、その存在自体は都市のなかで自我の空間を切り取って鎮座しているエゴイストのようにも映る。ブランドごとにあるデザインコードや縄張り主張、入口に飲み込まれていったん内部に入ると、そこは実は閉ざされた密閉空間なのだ。
「人が集まる場所」の変化
かつて日本人は敗戦から立ち上がり、経済を成長させる求心力に高密度化を選んだ。大都市圏に人を集め、空間を引き延ばして高層化し、国土の狭い土地を縦に伸ばしていった。意識的にも物理的にも高密度化させることが、都市の文化形成と噛み合い、成長のエンジンとなったわけだ。建築がはたしてきた過去の偉業を1つ挙げるとするならば、「垂直方向の技術革新」だろう。空高く積み上げていく空間の連鎖が発明されて以降、高層化は加速し、人間の叡智は空にまで届く勢いだ。
だが今、その都市のかたちが変わろうとしている。俗にいう三密(密集・密接・密閉)が集積されている都心部は、これを回避する流れにあって、街への積極的な足取りが人々の行動様式から抜けていっている。今は中心地よりも、郊外か、自然地帯か、外出自粛か…といった、何となく「街には寄り付きたくないな」といったマインドになっているからだ。人が集まる場所が、変化してきているのかもしれない。
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、その後独立。現在は「教育」「デザイン」「ビジネス」をメインテーマに、福岡市で活動中。▼関連記事
「考察」ポストコロナの商業デザイン~後編~- 1
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