2024年05月09日( 木 )

どうなる暴力団 工藤会トップに死刑判決出たが……(4)

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元朝日新聞編集委員 緒方 健二 氏

 日本で唯一の特定危険指定暴力団「工藤会」(本拠・北九州市)のトップに2021年8月24日、福岡地裁が死刑判決を言い渡しました。ナンバー2とともに元漁協組合長殺害など福岡県内であった市民襲撃4事件に関与したとして殺人などの罪に問われていました。現役の指定暴力団トップが死刑判決を受けるのは初めてとみられ、工藤会以外の暴力団関係者にも衝撃を与えたようです。1992年に暴力団対策法が施行されてから間もなく30年、日本警察の悲願でもある暴力団壊滅は死刑判決を機に実現するのでしょうか。

 文字通り人の一生を破滅に追い込む違法薬物、とりわけ覚せい剤への暴力団関与も止まりません。拳銃と同じく海外からの密輸入が主流で、海外の犯罪組織との連携が密なようです。国内の覚せい剤流通にかかわる元組員は「覚せい剤はほとんどが外国製。日本でつくると臭いがきつく、すぐにばれる。海外の組織は日本を『他国に比べて消費者が多く、高く売れる』とお得意さん扱いしている」と明かします。

 海外組織から覚せい剤の買い手探しを頼まれると、大口の仕入れ先である暴力団に話をつけて価格や持ち込み方法を詰めます。海外→暴力団→密売人という経路で市中に出回るのです。

 彼らの間で「比較的安全な持ち込み手段」とされているのは「瀬取り」です。仕出し国から船に積んできた覚せい剤を日本近海で受け渡しするのです。19年に熊本・天草の漁港で見つかった約590kgの大量覚せい剤も、この手法で運ばれてきたようです。末端価格で約354億円のこの覚せい剤は、1,967万回分の使用量に相当します。元組員は「顧客には主婦や中学生もいる」と明かします。

 警察庁によると20年に摘発できた密輸入事件は73件(前年比200件減)にとどまっています。その仕出し国・地域はマレーシア、米国、タイ、ベトナム、台湾、英国、メキシコ、カナダ、中国、イラン、ドイツなど実に多様です。

 覚せい剤事件で警察が20年に摘発した暴力団関係者を組織別に見ると、山口組、神戸山口組、住吉会、稲川会など大規模組織と並んで工藤会や道仁会(本拠・福岡県久留米市)も名を連ねています。どの組織も覚せい剤を資金源にしている実態がうかがえます。

壊滅なるか暴力団

逮捕 イメージ    過去にも警察は山口組(分裂前)や工藤会に対する「頂上作戦」を実施、壊滅に取り組んできましたが果たせませんでした。ある時期から警察当局は「警察の力だけでは無理。企業や地域、市民の協力を得て社会全体で壊滅を」との姿勢に転じました。主張に異論はありませんが、その進め方には疑問があります。

 福岡県では暴力団排除条例を改正して飲食店に「暴排標章」を貼らせる制度を12年に新設しました。その後、貼った店への放火や女性経営者らへの襲撃が相次ぎました。これより前には経営者が暴排運動に参加していた北九州市内のクラブに手榴弾が投げ込まれ、多数の従業員らが大けがをする事件が起きていました。暴追運動のリーダー格の市民宅への発砲もありました。

 飲食店関係者の1人は標章について「警察は『貼らないと工藤会の親交者とみなす』と半ば強制的に貼付を迫るのに、貼った店を襲撃から守ってもくれない」と批判的です。

 大きな権限と武器を合法的に持つ警察が対策の前面に出て、暴力団と対決するのが本来の姿でしょう。徒手空拳の市民を危険にさらすのなら襲撃から守る「保護」対策を万全に講じなければなりません。しかし不十分です。

 工藤会が牛耳っていたとされる北九州の繁華街ではいま、ひと目でそれとわかる組員が闊歩する姿はほとんど見かけません。小倉の中心部からほど近い場所にあった工藤会の本部事務所も撤去されました。「安全な街」に見えますが、話を聞いた市民の一部は「工藤会への恐怖が消えない」と警戒を解けないでいます。

 工藤会の関与が疑われながら解決できていない事件が残っていることもその要因です。警察当局はその数を明かしませんが、捜査関係者によると殺人未遂や殺人などの凶悪事件だけで十数件あるようです。警察幹部は「これらを解決しなければ市民を安心させられない」と語ります。

 「『頂上作戦』だの『極刑判決を勝ち取った』などと浮かれている場合ではない」と捜査関係者の1人は話しました。その通りです。一審でトップに死刑判決が出たとはいえ、組織は存続しています。工藤会関係者は「判決は何の影響もない」と言い切ります。地域の実情と組織の特性を見極めたうえでの対策を警察に強く求めます。加えて組員を組織から離脱させ、就労を支える取り組みもこれまで以上に必要です。

(つづく)


<プロフィール>
緒方 健二
(おがた けんじ)
緒方 健二 氏元朝日新聞編集委員(警察、事件、反社会勢力担当)。1958年生まれ。毎日新聞社を経て88年朝日新聞社入社。西部本社社会部で福岡県警捜査2課(贈収賄)・4課(暴力団)、20余年いた東京本社社会部で警視庁捜査1課(地下鉄サリンなどオウム真理教事件)・公安、国税、警視庁キャップ(社会部次長)5年、社会部デスク、編集委員、犯罪・組織暴力専門記者など。2021年5月に退社。

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