2024年03月28日( 木 )

肥薩線復旧に向けた現状と課題~肥薩線を高速新線として再生する(後)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

単線の高速新線建設を

肥薩線 イメージ    JR九州は、鉄道事業が赤字であっても、不動産事業の利益で鉄道事業の損失を内部補助することが可能であることから、肥薩線が被災したとしても、「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助金」が適用されないことから、法制度を改正してJR九州の肥薩線への適用を可能としなければならないと考えた。

 肥薩線の場合は、国鉄時代から慢性的な赤字路線であり、年間の収入よりもはるかに被害額のほうが多く、かつ人吉市は鉄道としての存続を望んでいるため、「復旧させた後も、当該路線の10年以上の長期的な運行が確保される」という条件は、満たしている。

 今回の青柳社長の「復旧させるには、新線を建設するぐらいの費用を要する」という説明も理解できる見解である。

 そこで筆者は、それならば国(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)が、八代~人吉~吉松間に、単線の高速新線を建設し、完成後はJR九州に低廉な価格でリースさせ、熊本~宮崎間に、最高速度200km/h運転を行う、スーパー特急列車を運転する方法を模索する方が良いと考えるようになった。

 肥薩線は、明治30年ごろに「鹿児島本線」として開業した古い鉄道であり、今回被災が激しかった区間を新線に切り替えたとしても、今後、他の区間が被災する可能性も高い。

 明治30年ごろに敷設された鉄道で、球磨川沿いの狭隘な土地に鉄道が敷設されていることもあり、急カーブや急勾配が連続する。また今回の水害で被災はしていないが、人吉~吉松間には、矢岳峠という33‰(パーミル)の急勾配区間をループ線とスイッチバックで超える難所もあり、高速運転は実施できない。

 それならば八代~人吉~吉松間を、単線の高速新線に切り替えることで、21世紀に相応しい鉄道へ、脱皮させた方が良い。

 可能な限り建設費を抑えることや、従来の肥薩線を利用していた人たちの利便性も考慮して、観光特急「かわせみ・やませみ」が停車していた駅などに立ち寄るかたちが望ましいと、筆者は考える。

 吉松~都城~宮崎間の吉都(きっと)線や日豊本線も、線路規格が高いとはいえないため、この区間も高速運転が可能なように、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が、電化も含めて軌道強化や一部の複線化を実施したうえで、熊本~宮崎間で特急列車の運転を実施したい。

 熊本~宮崎間は、高速バスや自家用車、福岡~宮崎間であれば航空も加わるが、鉄道はほとんどシェアがない状態である。

 八代~人吉~吉松間に単線の高速新線を建設することで、その区間で200km/hの高速運転が実施できるようになれば、熊本~宮崎間を2時間程度に短縮することが可能となる。日本の在来線は狭軌ではあるが、現在の鉄道車両は低重心化が進んでいるため、200km/hの高速運転を実施したとしても、乗り心地や安全性などで問題は生じない。

鉄道活性化には、「高速化」が不可欠

 九州南部の鉄道は、設備面で老朽化しており、高速バスや自家用車などに対する競争力が低く、利用が低迷した状態にある。やはり鉄道が活性化するには、「高速化」が不可欠であり、肥薩線が新線を建設するぐらいの被害を受けたということは、「新たな高速新線を建設するチャンス」というかたちで発想を転換させ、九州南部の鉄道の活性化を図ってほしい。

 青柳社長が言及した、「肥薩線は、復旧したとしても、年間の赤字額は9億円になる」は、現状のまま復旧させた場合であり、高速新線として復旧した場合、スーパー特急列車の運転が始まることにより速達性が大幅に向上するため、利用者は大幅に増加する。

 その効果により、熊本~宮崎間に限らず、熊本~吉松経由~鹿児島中央間にスーパー特急列車が運転されることも考えられる。赤字額が減少するだけでなく、より広範囲に便益がおよぶため、その効果は赤字額を完全に上回る。肥薩線の吉松~隼人間も、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が軌道強化や電化を実施して、JR九州に施設をリースするようにすれば良い。

 かつて近鉄名古屋線が、伊勢湾台風で壊滅的な被害を受けた際、狭軌の鉄道として復旧するのではなく、標準軸へ改軌を行うことで、名阪間に直通の特急電車の運転が可能となり、近鉄の発展に大きく貢献した。

 この事例からもわかるように今回の肥薩線の大規模な被災を「新しい高速鉄道を整備するチャンス」と捉えることで、JR九州や南九州の新たな発展に繋がることになる。

 国に働きかけ、八代~人吉~吉松間に単線の高速新線を建設する方向で、働きかける機運を盛り上げて欲しい。

(了)

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