2024年04月24日( 水 )

【提案】箱崎キャンパス跡地を「グリーンフィールド」に(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 

土建国家・日本の転換を考える

 東京の開発は資本力によって、高層高密か、低層低密のモデルしかなかった。飽くなき空間占有の欲望が、その駆動力になってきたからだ。こういったベクトルとは違うところで、豊かな時間を醸成するための「中層高密」や「中層中密」が新しいビジョンとしてあってもいいのではないか(コロナ禍では密度の取捨には注意が必要だが、福岡市は航空法の高さ規制により、ある意味では中層高密な建築群のまちだったといえるかもしれない)。

 土建国家といわれる日本では、公共事業予算を道路や港湾、橋や鉄道などの建設に注入し、国の骨格を形成するのに多くの手間を割いてきた。日本の土木技術は世界トップに鎮座した(先人たちのたゆまぬ努力の結晶のおかげで日本は技術大国へと上りつめたのだ)が、そもそも土木とは、人が住めないところにいかに住むかということを考えてきた学問である。右肩上がりの時代に最も求められた産業だともいえる。大きく時代が変わっていくなかで、都市や建築も含めた、広く骨格を形成する“土木の次の働き方”を再考する必要があるのではないだろうか。

建設業のサービサイズ

 サービサイズというのは、「モノを売る経済からサービスを売る経済へ」という意味で、環境政策などの分野で使われる言葉だ。たとえば、農薬を売ることは、農薬というモノを売っているビジネスだが、それを「害虫駆除サービス」ということに変えると、できるだけ農薬そのものは使わないことがインセンティブになる。モノを売って終わりではなく、できるだけモノを消費しないでサービスを提供するという方向になる。

 土木・建設会社も、社員たちを雇っていくだけの仕事量が必要だ。たとえば中山間地域にある狭い集落には、いまだ下水管が通っておらず、浄化槽処理で賄っている地域が多く残っている。行政サービスは、公平公正にすべての市民に対して浸透させていくという大義名分の下、わずか1~2軒の民家のために数十kmの距離を掘り返し、土管を埋めて、橋を架け、道をつくっていく。できるだけ行政サービスを集約していこうかとコンパクトシティを創造している道筋とは、ほぼ逆行した思想だ。

 これは“最適化されていかなければならない”土建国家日本の大きな課題だろう。これからのインフラ維持のためにも、地域の中小ゼネコンの存在は変わらず必要となってくる。彼らのためにも、環境保全や低炭素、脱成長が謳われる未来の社会に適した、この時代に沿った新しい仕事の開発が必要なのだ。拡大路線のインフラ投資を減らしていきながら、少しずつそちら側にシフトしていく、無理のない横移動が必要なのだ。

土木の仕事は次の次元にいけるか
土木の仕事は次の次元にいけるか

    建設業界も、サービサイズしてはどうだろうか。解体業者は壊し続けなければ、足場業者は建設現場が、掘削業者は公共事業がなければ、報酬を得られない――という旧態依然の“つくり続ける体質”から抜け出し、本当に必要なものを見極めて事業転換していってほしい。つくるという作業を、物だけにとどまらず、価値をつくるという思考を付加してほしい。未開発な過疎地に移住を促進し、未開の地をまた同じように開拓し続けるという予算の取り方を続けるべきではない。


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事