2024年05月12日( 日 )

ドローンが社会を変える 空の道整備で業界活性化へ(前)

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(株)トルビズオン 代表取締役社長
増本 衞 氏

映像作品の撮影から構造物の点検に至るまで、近年はドローンがDXのツールとなる例が増えつつあるが、黎明期ゆえに抱える問題は多い。メーカーや通信事業者などさまざまな企業がドローン事業に取り組むなか、(株)トルビズオンはドローンが航行する「空の道」を整備することで業界の発展を目指す。同社代表取締役社長・増本衞氏に話をうかがった。

(聞き手:(株)データ・マックス 取締役 緒方 克美)

ドローンが活躍するため必要なのは「空の道」の整備

 ――増本代表は文系大学の出身ですが、ドローンの「空の道」をつくるビジネスを始めたきっかけは?

 増本衞氏(以下、増本) 2000年代に入るとドローンが登場し、その認知度は徐々に上がりました。ただ、その認識は「日常生活にはあまり関係のないもの」「テレビのなかの最新技術」に過ぎませんでした。しかし、15年4月に首相官邸にドローンが墜落する事件が発生するとその風潮がガラリと変わり、ドローンのもつプライバシー侵害や落下時のリスクに鑑みた規制や法律の整備が本格化したのです。私もこの事件でドローンの存在を認識し、その危険性とともに発展の可能性に気づきました。

ドローン飛行の様子

 事業を開始して間もないころは、「ドローンをどのようにして利活用するか」という軸だけで活動してきました。しかし、ドローンを日常的に使う世界を想像してみると、プライバシーの侵害や墜落事故、騒音問題など、「新たな公害」が生まれる可能性があるのではないかと考えるようになりました。便利でありながらも危険がともなう。このリスクを避けるためには「どこを飛ばすのかを選ぶこと」が重要になります。そして18年、空路を公平かつ透明に設計していく空域整理の事業として「sora:share」が始まりました。

 ――sora:shareのサービス内容を教えていただけますか。

 増本 ドローンが航行する空の領域に「URL」を付け、ドローン利用者がその情報にアクセスできるようにデータベース化したものになります。インターネットサイトに欠かせないURLはもともと、数字の羅列によって構成される座標でした。人間にとっては難解なそれらを理解できるよう、名前を付けたものがドメインになります。空もインターネットと同様に際限なく広がるものですから、そこに領域を与えるために当社ではドメインを作成しました。当社ではこれを「スカイドメイン」と名付け、ビジネスモデル特許を取得しています。

 sora:shareはこのスカイドメインに加え、それぞれの場所における「合意の有無」の情報を集積しています。この「合意」はドローン航行を許可することを示していますが、契約上は土地の立ち入りに関するもので、たとえば、ドローンが墜落してしまった際には、機体回収などの事故処理のため私有地に立ち入ることになります。私有地への立ち入りに関するビジネスはすでに存在しますので、これを利用し、ドローンが航行する代わりに対価(インセンティブ)をお支払いするビジネスであるsora:shareが誕生しました。個人または法人が所有する土地上空の通過権は現時点では存在しない概念になりますので、それを扱うには既存のビジネスに則らざるを得ないのです。

陸も空も同じ?整備における障壁とは

 ――陸上の道路では、あおり運転の頻発によって危険運転に対する厳罰化が行われました。空も陸と同様に法律が追加されていくのでしょうか。

(株)トルビズオン
代表取締役社長 増本 衞 氏

 増本 ドローンに関する法律は年々、厳しくなっています。ドローンが登場したばかりのころは誰でも自由に飛ばすことができていました。しかし、官邸での墜落事件以降、その危険性が周知されることとなり、法律の作成が急がれたのです。とはいえ、あまりに厳しすぎると産業が発展しないため、項目を具体化し、規制の緩和と強化を各部分で行っているのが現状です。

 1つ厄介なことを挙げるとすれば、「1人ひとりの考え方が違うこと」です。いくら法律を守ることができていても、操縦者の航行がモラルを欠いたものであればトラブルに発展する可能性は十分にあります。たとえば、航空法で定められた建物との距離や飛行の高さを守っていたとしても、自分の土地の上空を延々と旋回されていては心地よいものではないでしょう。その土地でドローンを使用する者としてどのように振る舞うべきか、各自が一度考えたうえで行動していただきたいと思います。

 また、考え方が異なるのは操縦者だけではありません。ドローン航行ルートやその付近に土地を持つ方々のなかには「自分のところでは絶対に飛ばしてほしくない」という人もいれば、「別に構わない」という人もいます。航行可能なエリアを国が一律で決めるのではなく、それぞれに民意を問いながら航行可能箇所・不可能箇所をはっきりさせることがドローン産業の発展につながります。これらの情報をデータベースに集積し、提供していくことが当社のビジネスとなります。

22年2月、高速道路PAと連携したドローン配送の実験を行った。

(つづく)
【文・構成:杉町 彩紗】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:増本 衞
所在地:福岡市中央区天神1-1-1
設 立:2014年4月
資本金:1,450万円
URL:https://www.truebizon.com/(企業)
https://www.sorashare.com/(「sora:share」)


<プロフィール>
増本 衞
(ますもと・まもる)
1978年生まれ、山口県下関市出身。西南学院大学法学部卒業。日本テレコム(株)(現・ソフトバンク(株))で勤務後、九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻を修了した。2014年に(株)トルビズオンを起業し、ドローン事業を立ち上げた。その後、ドローンの社会受容性を高めるための上空シェアリング「sora:share」のモデルを考案し、ビジネスモデル特許を取得。同事業モデルの紹介で、テレビ東京「ガイアの夜明け」やTBS「がっちりマンデー」など多数のメディアに出演。

 

(後)

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