2024年03月29日( 金 )

“アート思考” でとらえ直す都市の作法(1)

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都市にできる気候変動制御

 今後、気候変動によって世界的な干ばつや熱波が深刻化し、食糧危機のリスクが増大していけば、ウクライナの豊かな土壌がますます重要になってくる。ロシア国民の胃袋を満たすだけではない。ウクライナ産小麦に依存する中国はもちろん、中東やアフリカにも、大きな影響力をもつことができる。気候変動が進めば進むほど、戦略物資としての穀物の重要性は増していく。

 さらにウクライナは、天然資源にも恵まれている。半導体製造に必要な、ネオン、アルゴン、キセノンなどの原材料ガスの主要産出国であり、ネオンガスに至っては世界の70%もの量を供給している。食糧、資源、IT―これらはまさにロシアが気候危機に直面するなかで、のどから手が出るほどほしいものばかりだ。その意味で、今回の戦争はNATOの東方拡大阻止という最重要課題への対応であるとともに、気候危機への適応戦略の一環でもあるのだ。

世界のCO2排出量(2017年)-資源エネルギー庁HPより
世界のCO2排出量(2017年)
資源エネルギー庁HPより

    もし、現在の二酸化炭素排出ペースが続けば、地球の気温は2030年に上昇1.5℃のラインを超えてしまい、2100年には4℃以上の気温上昇が起こることが危惧されている。二酸化炭素排出量の約7割を占めているのは、他ならぬ“都市”である。だから気候危機に立ち向かい相互扶助を取り戻すためには、都市生活を変えなくてはならない。日本は二酸化炭素排出量(2017年)が世界で5番目に多い(1位:中国28.2%、2位:アメリカ14.5%、3位:インド6.6%、4位:ロシア4.7%、5位:日本3.4%/資料:日本エネルギー経済研究所)。

 気候変動の被害が年々拡大するにつれ、世界秩序の不安定性は高まっていく。今後、水、食料、資源、エネルギーをめぐる紛争や戦争の火種は増えていく。これは、全世界すべての国で起こり得る可能性があるものだといえる。少なくともその抑止力として、環境問題への取り組みが、建設業界を含めたすべての産業界で注力していかなければならない最重要課題の1つになる。

アート思考とは

 さて、今回は「アート×都市」について研究してみたいと思う。そこで最近目を通して感銘を受けた「13歳からのアート思考」(末永幸歩著)のなかで引用されている「アート思考」を実践し、“探究の根”を拡げていきながら「これからの都市の在り方・付き合い方・環境との向き合い方など」を考えていきたい。

アートという植物(13歳からのアート思考より)
アートという植物
(13歳からのアート思考より)

    「アートという植物」は、「表現の花」「興味の種」「探究の根」の3つからできている。空間的にも時間的にもこの植物の大部分を占めるのは、目に見える「表現の花」ではなく、地表に顔を出さない「探究の根」の部分だ。どんなにうまく絵が描けたとしても、どんなに手先が器用で精巧な作品がつくれても、どんなに斬新なアイデアを思い付いたとしても、それはあくまで「花」の話。「根」がなければ、「花」はすぐに萎れてしまう。成果物だけでは、本当の意味でのアートとは呼べない。

 美術の授業で依然として行われている「絵を描く」「ものをつくる」「作品の知識を得る」という教育は、アートという植物のごく一部である「花」にしか焦点を当てていない。美術館などでアート作品を見ても「よくわからない」「『きれい』『すごい』としかいえない」「どこかで見聞きしたウンチクを語ることしかできない」という悩みは、それは日本の教育が「探究の根」を伸ばすことをないがしろにしてきたからかもしれない。
 アートにとって本質的なのは、作品そのものよりも、作品が生み出されるまでの過程のほうにある。アート的な都市とは、知覚に問いかけてくる、もしくは無作為に触れることができる“探究の根”にこそ宿る生態。表面的な“表現の花”を眺めるのは20世紀的な都市像であり、“アート思考”に次世代の都市作法と旧来の教育体制の問題点が観られるかもしれない。


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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