2024年04月18日( 木 )

自らをイエス・キリストになぞらえる孫正義は世界を救えるのか?(前)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

東京ポートシティ竹芝オフィスタワー    ソフトバンクグループの会長兼社長である孫正義氏の言動は日本のみならず、海外でも大きな話題を提供してきました。この4月1日に行われた同グループの合同入社セレモニーでの挨拶もそうでした。

 折からのロシアによるウクライナへの軍事侵攻に触れ、「まさかこんなに悲しい、胸の痛む戦争が大規模に始まるとは思ってもみませんでした。戦争には反対です」と名指しはしませんでしたが、ロシアやプーチン大統領を非難しました。この発言はすぐさま、世界に拡散していきました。

 実は、孫氏はプーチン氏とは何度も面談を重ねる間柄でした。今回のウクライナ戦争の前哨戦ともいわれる2014年のロシアによるクリミア併合の直後に来日したプーチン大統領とも親しげに歓談していたものです。当時、プーチン大統領から「ロシアにきてほしい」と誘われ、「ぜひ行こうと思っている」と語っていました。

 その背景には、ソフトバンクのロシア関連ビジネスが影響していたと思われます。というのは、日本海に海中ケーブルを敷設し、ロシアの極東・シベリア地域から安価な水力発電を日本、中国、韓国に送るアジアスーパーグリッド構想を推進していたからです。この事業は結局、具体化には至りませんでした。しかし、自然再生エネルギー事業に熱心な孫氏はロシアに限らず、中国や朝鮮半島でもビジネスチャンスを見出そうと独自の動きを重ねてきています。

 そんな孫氏がロシア以上に注目し、大々的に投資を行おうとしてきたのが、インドネシアの首都移転計画にほかなりません。現在のジャカルタが温暖化の影響で水没の危険に直面しているため、ウィドド政権では東カリマンタンに首都を移転する国家プロジェクトを推進中です。この325億ドルの事業に計画段階から深くコミットしてきたのが孫氏でした。

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 孫氏はアブダビのムハンマド皇太子やイギリスのトニー・ブレア元首相らとともに、新首都建設監視委員会のメンバーにも加わるという食い込みぶりでした。孫氏は得意の環境ビジョンを持ち込み、「カーボン・ニュートラルを実現し、自然と共生する新たな都市づくりにソフトバンクの経験と技術を投入したい」と息巻いていたものです。

 ところが、この3月に突然、「インドネシアからは手を引く」と言い出しました。これにはウィドド大統領も面食らったに違いありません。なぜなら、この国家プロジェクトを担当するパンジャイタン大臣によれば、「ソフトバンクはヌサンタラへの首都移転計画に対して300億ドルから400億ドルを投資すると聞いていた」からです。

 確かに、2020年の時点で、孫氏自らが次のように述べていました。「現時点では具体的な投資金額は明らかにできませんが、新たなスマートシティの建設に向けて、環境や人工知能を含む最先端の技術を提供し、インドネシアの未来を支援したいと考えています」。

 もちろん、ソフトバンクは慈善事業団体ではありません。投資リターンをしっかりと計算したうえでの発言であったと思われます。それが突然の方針転換による事業からの撤退というのでは、インドネシアからすれば「寝耳に水」と言わざるを得ないでしょう。恐らく、その背景にはソフトバンクグループの経営が危機的状況に陥っていることがあるのではないか、との疑心暗鬼も生まれており、海外の投資ファンドから孫氏に向けられる目は厳しくなる一方のようです。

 これまでも孫氏に関しては、「先読みの天才」「神業的な投資スタイル」と高く評価する見方と、「冷淡極まりない投資家」「逃げ足の速い自己中」との否定的な見方が拮抗していました。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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