“アート思考” でとらえ直す都市の作法(3)
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自動車が変えた街のかたち
車の所有と利用の実態ほど非効率なものはない。個人で所有している割合は全体の約96%。自動車大国アメリカでは年間2兆ドル(210兆円)を車の所有に費やしているが、車を使う時間はたった4%だという。現代の自動車は運転するための機械というより、駐車するための機械と言っていい。
オランダの歴史からもわかるように、私たちが全能の車のために都市をつくり、つくり替えるようになるまでは、どの都市もかつて自転車都市だった。坂のアップダウンや暑さ、悪天候や厳寒は今後も常に課題にはなるが、自転車に対する大方の障壁は、自治体が管理できる範囲に収まっている(要はやろうと思えば手の届くところにあるということだ)。現在は、まったく歩かないか、歩くことが少ない都市空間が多すぎる。いまだに自治体の政策が密集した複合用途の地域ではなく、低密度の郊外型の開発を促していることが多すぎるように見える。
かつて高速道路や自動車産業が都市を変えたように、今後は自動運転車が都市を変貌させていくことになるだろう。自動運転車という着想は90年以上前にさかのぼるが、これから都市、道路、家庭、仕事、生活を根底から変えるのは、人感センサー、GPS、電気自動車、ビッグデータ、レーダー、レーザースキャン、コンピュータービジョン、人工知能などの融合による、いわゆる「スマートシティ」といわれる新しい都市の開発手法だ。自動車と人との関わり方を改めて空間的な視座で考える。静岡県裾野市(ウーブンシティ)や、福岡市でも、九州大学箱崎キャンパス跡地で実験的に取り組まれていくことになっている。日本独自の新しい視点が盛り込まれていくことをぜひ期待したい。
スマートシティの定義
…具体的には都市に張りめぐらせたセンサーやカメラ、スマートフォンなどを通じて環境データ、設備稼働データ、消費者属性、行動データなどのさまざまなデータを収集統合してAIで分析し、さらに必要に応じて設備・機器などを遠隔制御することで、都市インフラ、施設、運営業務の最適化、企業や生活者の利便性、快適性向上を目指すもの。ドバイやシンガポールなどで進められているまったくゼロからつくる「グリーンフィールド型」と、既存の都市をつくりかえる「ブラウンフィールド型」の2つがある。
ウーブンシティ
…トヨタ自動車がNTTと組んで、静岡県裾野市のトヨタ自動車の工場跡地175エーカー(約70.8万m2)で進めているプロジェクト。ここはさまざまな領域の新技術のリアルな実証実験現場でもあり、世界中のさまざまな企業や研究者が取り組む機会としている。地上に自動運転モビリティ専用、歩行者専用、歩行者とパーソナルモビリティが共存する3本の道が網の目のように張りめぐらされ、地下には物流移動道が1本つくられる。高齢者、子育て世代の家族、発明家の方々を中心に当初は360人程度、将来的にはトヨタの従業員を含む2,000人以上の住民が暮らす街となる予定。完成は2025年を目指している。
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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