2024年04月27日( 土 )

“アート思考” でとらえ直す都市の作法(3)

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【③ 資本主義の歴史】

経済のスケールダウン

スマートシティ先端都市-バルセロナ
スマートシティ先端都市 バルセロナ

 資本主義がすでにこれほど発展しているのに、先進国で暮らす大多数の人々が依然として「貧しい」のはなぜなのだろう。家賃が支払えない人々は長年住んでいた部屋から追い出され、ホームレスが増えていく。投機目的の誰も住んでいない部屋が多数存在しているのにも関わらず、ホームレスが大勢いるという事態は、社会的公正の観点から観ればスキャンダルでさえある。

 資本主義は、人の欲求に基づいて設計された制度だったはずだが、今必要なのは、都市という資本が生み出した空間を再検証し、新しい都市の合理性を生み出すことではないだろうか。人間が自然を支配・操作し、自然の脅威がなくなる「自然の終焉」を目指した近代化の果てが、むしろ自然の猛威によって人間が翻弄される逆のフェーズに入っているようだ。

 私たちの社会は、「どこか遠く」の人々や自然環境に負荷を転嫁するうえに成り立っていることを忘れてはならない。自動車の鉄、ガソリン、洋服の綿花、牛丼の牛肉にしても、「遠い」ところから日本に届く。グローバル・サウスからの労働力の搾取と自然資源の収奪なしに、私たちの豊かな生活は不可能だ。グリーン・ニューディールが本当に目指すべきは、破局につながる経済成長ではなく、経済のスケールダウンとスローダウンである。その際の変化の目安としてしばしば言われるのは、生活の規模を1970年代後半のレベルにまで落とすこと。“脱成長”の主要な目的はGDPを減らすことではなく、量(成長)から質(発展)への転換だ。

グリーンエコノミーは変化のはじまりになるか
グリーンエコノミーは変化のはじまりになるか

グリーン・ニューディール

…再生可能エネルギーや電気自動車を普及させるための大型財政出動や公共投資を行う。そうやって安定した高賃金の雇用をつくり出し、有効需要を増やし、景気を刺激することを目指す。好景気が、さらなる投資を生み、持続可能な緑の経済への移行を加速させると期待されている。

 経済格差の収縮、社会保障の拡充、余暇の増大を重視する経済モデルに転換しようという計画。経済手法の世界で、アメリカのZ世代の半分以上が資本主義よりも社会主義に肯定的な見方を抱いているのは、そんな流れを感じ取っているからなのかもしれない。人間と自然は、労働を媒介としてつながっている。だからこそ労働経済のかたちを変えることが、環境危機を乗り越えるために重要なものの1つになるのだ。

「アート✕都市」を探究する6つのアプローチ

 住空間や文明社会と一緒に、④⑤⑥(働く場所や学ぶ場所、里山の景観の歴史)も併せて見ていきたいところだが、こちらはまた別の機会としたい。


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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