2024年04月25日( 木 )

UAEのハリファ大統領逝去 MBZに期待(後)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

宇宙進出に国を挙げて取り組む

アラブ首長国連邦(UAE) イメージ    日本としても、これまで以上にアラブ世界との関係を発展させるうえで、MBZの新大統領就任は心強い限りです。実は、振られたかたちのオバマ元大統領ですが、自伝のなかで、MBZについて「彼ほどのみ込みの早いリーダーにはお目にかかったことがない」と評価していました。アメリカのバイデン政権の幹部は「MBZは歴史観のある戦略家だ。目の前の課題だけではなく、数年から数十年も遡って問題の本質を見極めようとしている」と分析しています。

 日本ではあまり知られていませんが、UAEの人口は1,000万人に届きません。しかし、国民総生産(GDP)は4,200億ドルに達しています。石油によって富を築いてきたからです。その収益を基盤に創設された投資ファンドの規模は1.3兆ドルで、世界最大を誇っています。ムハンマド一族は全世界の原油の6%以上を支配しており、オイルパワーの元締めのような存在です。そのため、MBZ自身が世界で最も豊かな資産家として位置付けられています。

 そうした豊かさを背景に、未来の国づくりに先行投資を続けているのがUAEです。その象徴的な事業が先に述べた「2117年プロジェクト」に他なりません。ほぼ100年後に火星に人類が移住できる最初の都市を建設するというもの。当初の計画では人口60万人規模を目指すと言います。

 2020年7月に打ち上げた「HOPE」は2021年2月には火星の軌道に乗り、上空から火星の大気や気候を調査しています。水の存在につながるデータの収集にも当たっている模様です。火星に関する調査と並行し、UAEは木星への足がかりをも得ようと計画を進めています。その目標年度は2028年とのこと。

 なぜ、UAEはそこまで宇宙への進出に国家を挙げて取り組んでいるのでしょうか。同国のサラ・アル=アミリ先端科学大臣の発言は従来の宇宙開発ビジョンとは一線を画すものです。曰く「私たちは地球のために宇宙を目指しています。何百年も前のイスラム黄金時代には、この地域は科学、技術、そして文化の世界的な発展の中心でした。ですから、HOPEには自分たちの起源を思い起こさせる使命があるのです。この地域には知識の創造という伝統があります。宇宙に行くことで地球に恩恵をもたらしたいのです」。

UAEとの関係強化は日本の国益にも合致

 彼女によれば、宇宙開発が地球上にもたらす恩恵は無数にあるとのこと。たとえば、スマートフォンのGPSもマットレスの形状記憶素材も、すべてNASAのテクノロジーから派生したものです。しかも、UAEの発想がほかを圧倒しているのは、「火星ミッションを通じて、失業率の高さに悩む地域における若者に職業訓練の場を与える」というような多角的な目論見を意図していることです。

 実は、アラブ地域の人口構成を見れば、半数以上が35歳以下の青少年です。「彼らのエネルギーを正しくいかすためにも、紛争を回避させるうえでも宇宙開発は大きく貢献することになる」というのがUAEの宇宙開発にかける意気込みなのです。こうした動きはUAEにとどまらず、周辺のサウジアラビアやバーレーンにも広がっています。すでに中東地域10カ国が宇宙開発に関する合意書に調印しました。

 また、UAEが建造を進める人工衛星「813」に協力する取り決めができているほどです。「813」とは、イスラム黄金時代に知識の中心的役割をはたしたバグダードの「知恵の館」が設立された年に因んで付けられたもの。2117年を目指し、長い宇宙旅行を成功させるために食糧や水を移動中に生み出し、保存する技術も開発目標になっています。

 このようにUAEでは、欧米や中国、日本とも異なる価値観や使命感の下で宇宙開発計画が加速中なのです。その土台づくりの段階から日本は協力を重ねてきました。地上での争いや対立にエネルギーや資金を浪費するのではなく、人類全体が豊かな時代を生み出すような宇宙的視野の技術協力を進めたいものです。その意味でもUAEとの関係強化は日本の国益にも合致すると思われます。

(了)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

(中)

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