2024年11月14日( 木 )

熊本TSMC進出の波紋とその衝撃(前)

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(株)アクロテリオン
代表取締役 下川 弘

 世界的な半導体メーカーの台湾積体電路製造(TSMC)が、ソニーグループと共同で熊本県菊陽町に進出する話は昨年から周知のことで、建設業界のなかでは「杭打ち機が足りない」とか、「九州中からかき集めている」などの声が聞かれ、大きな工場建設とは聞いていたが、結局は一般的な工場なのだろうとタカをくくっていた。

 8月終わりに熊本に出張する機会があり、ついでにその建設中の工事現場を見てみようと思いたち、炎天下の中、車を走らせた。福岡から熊本ICで降り、国道58号バイパスを阿蘇方面に20分ほど走り、菊陽町に入ったところ、そこにびっくりするような巨大な工事現場が現れた。港湾施設かと思う程の大型クレーンが30数本建ち並び、遠くからでもその光景が見えた。筆者は、約35年もの間某ゼネコンに勤務していたので、土木のダム工事現場などをはじめ、それなりに大きな工事現場も見てきたのだが、今回の建築の工事現場はこれまで見たことがない規模で、想像していた以上に凄かった。

遠方から見えてくるTSMCの建設現場場 大量の建設クレーンが立ち並ぶ
遠方から見えてくるTSMCの建設現場場
大量の建設クレーンが立ち並ぶ

TSMC進出は 一大国家プロジェクト事業である

 熊本菊陽町に進出するTSMCは、正式にはソニーの子会社「ソニー・セミコンダクタ-・マニュファクチャリング」、大手自動車部品メーカー「デンソー」との合弁会社で、「ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリング」(JASM)という名が付いている。社長はソニーから移籍された堀田祐一。建設場所は熊本県菊池郡菊陽町にある第2原水工業団地で、約23万m2。生産開始時期は2024年末を目指しており、生産プロセスは28/22nm(プレーナー構造)および16/12nm(FinFET構造)となっている。投資規模は約86億ドル(約1兆1,000億円)。うち、国からの支援が約4000億円程度とされているから、ある意味「一大国家プロジェクト」だといえる。

 従業員数は約1,700人。台湾TSMCから約300人を出向させ、ソニーから約200人出向、残り7割の新規採用を新卒と中途採用にする予定という。ちなみに新卒者の初任給は28万円と公表されており、情報通信業の平均的初任給は大学卒で平均約21.81万円、大学院修士修了で24.40万円であるから、約4~6万円高いことになる。

TSMCの建設現場場 大量の建設クレーンが立ち並ぶび、工事車両が行き来する
TSMCの建設現場場
大量の建設クレーンが立ち並び、工事車両が行き来する

TSMC誘致にともなう半導体関連企業の熊本進出

 先に今回のTSMCの熊本進出に関して「一大国家プロジェクト事業」という言葉を使わせていただいたが、工場建設のかたちが見えてきた今熊本を訪れてみると、熊本県・熊本市をはじめとして、熊本県内の自治体はまさにTSMC対応の話でもちきりのようだ。今回筆者も現地を訪れ、それを実感したのである。

 まず、TSMCの進出により、多くの国内半導体関連企業が熊本県内への進出を発表している。たとえば、東京エレクトロンは今年3月、子会社の合資事業所を熊本県合志市に、300億円を投じて開発棟を24年秋には新設すると発表した。また、半導体製造で使う特殊ガスなどを販売する三重県のジャパンマテリアルは、TSMCの工場近隣に約66,500m2の土地と工場を12億円で購入したという。一覧表に示す通り、他にも多くの企業が熊本県内に進出を表明しており、TSMC誘致により多くの関連企業の熊本県への投資が活発になっている。

半導体関連企業の熊本県内への進出一覧
半導体関連企業の熊本県内への進出一覧

半導体関連企業以外の熊本への投資・進出の可能性

 前術の通り、TSMC進出にともなって多くの半導体関連企業が熊本県内各地に進出することが次々と決まってきたが、それ以外の業種の進出・投資はこれ以上になるのではないかと考えられる。つまり、今の段階で、このTSMCの建設工事現場だけでも、数千人単位の建設労働者が毎日出入りするため、その宿泊ホテルや飲食店、お弁当屋などは、到底数が足りなくなる状況なのである。

もちろん建設資材や建設機械なども同様であり、それを運搬するトラックやその運転手なども同様である。建設資材・搬入・建設機械・そして職人たちは工事が終わればいなくなってしまう一過性のものだとしても、TSMC工場の完成後および半導体関連企業の工場完成後も、物流倉庫や宿泊ホテル・アパート・マンション、スーパー・コンビニ・飲食店などが次々に建設され、工業団地ではありながらも、都市の形成に必要なインフラ整備が次々と必要となってくることが予想される。さらにまた、半導体・電子・電気系の工業高校、工業大学などの進出も考えられるのである。

 ちなみに、台湾から赴任するTSMCの従業員の家族の子どもたちを見据えて、(一社)「熊本インターナショナルスクール」(KIS、熊本市東区)では、2024年4月に中学部を新設し、TSMC 新工場の南西約10㎞のところに新校舎を建設することをすでに発表している。

熊本インターナショナルスクール(写真:ホームページより)真:ホームページより)
熊本インターナショナルスクール
(写真:ホームページより)

(つづく)


<プロフィール>
下川 弘
(しもかわ ひろし)
1961年11月、福岡県飯塚市出身。熊本大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程を修了後、87年4月に(株)間組(現・(株)安藤・間)に入社。建築営業本部やベトナム現地法人、本社土木事業本部・営業部長などを経て、20年9月からは九州支店建築営業部・営業部長を務め、21年11月末に退職。現在は(株)アクロテリオン・代表取締役を務める。ほかにC&C21研究会・理事やハートフルリンクアジア協同組合代表理事など。

(後)

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