2024年05月17日( 金 )

弱みを生かした福岡の都市づくり再考「遅い開発」と中古市場の親和性(3)

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不動産業界の事情

 アメリカは、不動産情報をオープンにする。不動産取引の仕組みを日本と比較してみよう。
 アメリカでは「売り手」と「買い手」が、それぞれ不動産仲介業者と契約する。日本では売り手と買い手の仲介業者が同じとされる「両手取引」が多いが、アメリカにおいては双方の顧客の利益相反にあたることから、原則的に禁止されている。

 たしかに「高く売りたい」という顧客に寄り添い、その一方で「安く買いたい」という顧客にも同一の仲介業者が介在するのは少々矛盾がある。日本の仲介業者は全国4地域に分かれて中古物件が登録されている、不動産流通標準情報システム(REINS/レインズ:Real Estate Information Network System)を見て顧客に物件を紹介する。アメリカでは同等のシステムを「MLS(Multiple Listing Service)」と呼ぶ。

 レインズ、MLSともに、仲介業者しか閲覧することはできない。レインズは物件について、築年数や間取り、価格などが表示されているが、リノベーション/リフォーム履歴、物件の周辺情報などは含まれていない。一方、物件情報だけでなく周辺情報などあらゆる情報が盛り込まれているMLSでは、さまざまな情報が網羅的に収集されている。

 たとえば、地域の情報だけでも、居住する人種や各種学校の運営状況、ハザードマップ、病院などの情報が一目でわかるシステムがつくられている。詳細な情報が挙げられるのには、MLSには標準項目があるからだ。それを仲介業者は調査して売主からヒアリングを行い、その結果をシステムに書き加える。売主も仲介業者も知っている情報を出さずに後で不具合が判明した場合には、訴訟のリスクを抱えることになるので、知り得た情報は公開されていくことになる。また、買い手にとっては過去の取引履歴が掲載されているため、物件の相場感を知ることができる。

 アメリカでは、なるべく正確で信頼できる豊富な情報を提供することで、中古の取引を活性化させ、市場を拡大させるという考え方がある。日本の仲介業者のように、情報を囲い込むことで他社との差別化を図ったり、クライアントとの情報の非対称性を利用したりするのではなく、コンサルティング要素を含む多様なアドバイスをできるかに重きを置いているのだ。

(出典:国土交通省 総務省)
(出典:国土交通省 総務省)

松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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